3.定性調査から仮説・アイデアを出すために

新しい芽を発見するための定性調査には「データの代表性」は邪魔

定量調査では「母集団の中から、統計学的な代表性をもってサンプリングをして、整合性のある調査を行う」というのが基本です。しかし、定性調査をする際、つまり新しい芽を発見するための調査を行う際には「代表性のあるサンプル」は何も語ってくれません。定性調査の場合は、「統計学的代表性」とは関係のないところで活躍します。

その理由をいくつか下記に列挙します。

  • 定性調査は目的がウォッチング(観察・発見)である。ディシジョン(決定・判断)ではない。
  • 定性調査は「1/1000の変化の芽を、競合他社より3日早く探す」のが目的である。
  • シャープな市場仮説をつくるための作業が定性アプローチである。
  • 定性調査は、生活者自身が気づいていない潜在ニーズやウォンツを探すために行うものである。マーケティング仮説を「彼らが回答してくれる」わけではない。
  • 代表性とは「ディシジョン工程」において考慮しなくてはいけないことである。

このようなことから、新しい芽を発見するための調査を行う際には、多くの場合において、データの代表性は考慮しなくて構わないのです。むしろ、ターゲットに合致する人(30代主婦といった単なる属性ではなく、もっと具体的に絞られたターゲット象)を対象に、代表性の反対ともいえる「とんがった事実」を探すために行うのです。定量情報では少数意見は切り捨てられてしまうことがありますが、定性情報の場合は、ひとつの発言や一人のターゲットに着目することも頻繁にあります。 商品開発においては、この定性情報を活用することによって、“1000分の1の変化の芽”を見出すことが可能です。そのために、定性情報を集めることが必要なのです。

アイデア発想のために「事実」が必要な理由

では「事実」とは何でしょうか? 「本当のこと」「嘘でないこと」「真実」……。いろいろな表現の仕方があると思います。広辞苑(第五版)で「事実」を引いてみると、次のような説明がありました。

「事実」

  1. 事の真実。真実の事柄。本当にあった事柄。
  2. 本来、神によってなされたことを意味し、時間・空間内に見出される実在的な出来事または存在。実在的なものであるから幻想・虚構・可能性と対立し、すでに在るものとして当為的なものと対立し、個体的・経験的なものであるから論理的必然性はなく、その反対を考えても矛盾しない。

ここで重要なのは下線を引いた部分です。

たとえばいま、窓の外を見ます。午後3時ですが、空は真っ暗です。雨が降るに違いありません。このとき、「午後3時、空が真っ暗だ」は【事実】ですが、「雨が降るに違いない」は、【事実】ではなく、あくまでも可能性です。

このように、【事実】を元に推測した可能性の部分(~にちがいない/~のはずだ/~ではないだろうか)が【仮説】であり、【事実】とは明確に区別します。

マーケターは、生活者の【事実】をもとに、そこから【仮説】を導き出します。そして精度の高い【仮説】を導き出すためには、豊かな【事実】が必要です。

定性的事実から仮説を生成する。

たとえば、「疲れたのでスターバックスで冷たいラテを飲んだ。甘くて疲れがとれた。」というのは、【事実】ですが、もっと豊かな事実(=とんがった事実)のほうが仮説生成により役立ちます。
それではその【事実】は一体どんな状況だったのでしょうか?

  • デパートで2時間買い物をした後?
  • 駅から重い荷物をもって帰る途中?
  • いつも飲むラテ?
  • いつもはコーヒーを飲むけど、そのときは甘いラテがほしかった?

表面的には同じ行動でも、その背後にはたくさんの【事実】が隠れています。マーケターが必要とするのは、そういった生活者の姿やそのときの状況や気持ちが見えてくるデータです。具体的であればあるほど、様々な仮説やアイデアが湧いてきます。
デパートで2時間買い物をした後、疲れたのでスターバックスで冷たいラテを飲んだ。甘くて疲れがとれた。」この下線の部分が追加されると、「デパートに出店したら客数が増える」「買い物したものを置くスペースを作っておこう」「デパートのレシートを持ってきたお客さんにクッキーをサービスしよう」など仮説・アイデアが浮かんできます。

「デパートで2時間買い物をした後、疲れたのでスターバックスで冷たいラテを飲んだ。寒い冬はいつもホットコーヒーばかりだけれど、買い物の後は暑かったので冷たいラテは、甘くて疲れがとれた。」このように下線の部分がさらに追加されるともっと仮説が浮かんできます。例えば、デパートの近くの店舗では、冬でもコールドも売れるかもしれない、コーヒー党に向けたPOPを作ったら客単価アップするかもしれない、デパートが近いスターバックスでは買い物の後には冷たいラテをおすすめしたら客単価アップするかもしらない、という仮説が浮かんできます。

このように定性データは、具体的な事実であればあるほど、仮説やアイデアが浮かんでくるのです。

【事実】【仮設】【アイデア】は、マーケティングリサーチを語る上でとても重要なキーワードですので、別の記事でも記載していきます。