ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。
「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。
今回は7/16に行われた「月刊:よげんの書7月号」の前半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。
スマートフォンが自由への切符の代わりとなる
スマホが免許と鍵の代わりに
2021.06.08に行われたAppleの開発者向け会議WWDC21でジェニファー・ベイリーApple副社長が「物理的な財布から完全に解放されるためには、もうひとつ必要なものがある。それが身分証だ。」と発表。今秋に配信を始める予定のアップルのiOS15 では、米国の一部の州において運転免許証をスキャンして取り込めるようになり、免許レスの機能を有するようになる。実現すれば、財布の中に免許証を常に入れなくてもよくなる。グーグルも追随し、Android12 ではAppleが先行していた車のデジタルキー対応が備わる。両社とも将来は生体認証技術を使ったパスポートなどもスマホに取り込む構想である。携帯(スマートフォン)が免許証、身分証代わりになるようになるかもしれない。Appleの稼働台数は10億台超、Androidの稼働台数は30億台超なので、大きな流れになりそう
デジタル証明書は、オープンで安全な欧州の象徴
証明書代わりにスマートフォンが使われるようになるもう一つの事例として、EUで「デジタルCOVID証明書」の本格運用をはじめるとの発表があった。国境を越えてもQRコードを示すだけで自主隔離や検査を免除される「ワクチンパスポート」として機能するとのこと。フォンデアライエン欧州委員長は「デジタル証明書は、オープンで安全な欧州の象徴」とアピールした。EU加盟国やスイスなど33カ国で有効になっており、すでにワクチンを接種した人がスマホ片手に空港で証明を見せているような報道もあった。スマートフォンを所持し携帯していないと、自由に動けなくなる環境になるかもしれない。スマートフォンが自由を証明する切符になる社会が始まっているのだ。
デジタルウォレットはビルゲイツが最初に言い出した。財布の中身を小型の端末に入れて、というコンセプトを出していた。今で考えるとスマートフォンのようなもの。
リープフロッグ現象というものがある。後進国でインターネット回線がファイバーケーブルなしに無線になるなど。新しい技術が出てくることによって途中の進化を跳び越すこと。日本はデジタル化で遅れている部分があるが、他国で開発された技術を活用して、一気に飛び越えられる可能性もあるのでは?
昨年は若者が、今年は高齢者が経済を牽引する
ワクチン接種が進み銀座に高齢者が戻ってきた
ドコモインサイトマーケティングのデータを見ると、6月最後の土日(26日~27日)午後3時台の東京・銀座の人出は、60~70代が5月最終週の土日と比べ39%増加し、他の年代よりも多かった。伸び率も他の年代と比べても高かった。特に70代は45%増と大きく伸びた。消費も活発で、25日から店頭での夏のセールを始めた伊勢丹新宿本店では、前年のセール初日に比べて売上高が2割増えた。高齢者の購入も多かったとみている。家計簿アプリのデータが日経で紹介されており、特徴的だったのが飲み会出費が6倍にもなっているところだ。
吉永小百合主演作「いのちの停車場」が初登場1位
5月22日~23日、土日2日間の映画動員ランキングで「いのちの停車場」が初登場1位となった。同週に公開された地獄の花園(永野芽以主演の若者向け映画)は3位。4位5位にはファミリー層向けの映画がランクインしていた。ランキングを見ると、シニアが活発なのではと思える。去年9月の映画ランキングでは若い世代の観客が増えて「今日から俺は」や「コンフィデンスマンJP」が人気と紹介していた。つまり、若者から街に出だしたのではないかと。その次、10月に「鬼滅の刃」が公開されてランキング上位になり、ファミリー層が街に出てきた。今回、いよいよシニアが映画館に戻ってきており、街に出だしたのではないかと思う。吉永小百合主演の映画は、ウイルス感染への心理的影響もあって映画館から遠ざかってきた高齢層の観客が戻るきっかけにもなるだろう。
僕は60代で、ワクチンの接種が終わっている。接種完了したとSNSに投稿したら、友人から飲みのお誘いが来た。(緊急事態宣言中でお店がやっていないために一旦保留)。ワクチンの接種が進むと、外に出たいと思う人も増えそうだが、デルタ株も増えているとのことだし、もう少し我慢の期間が続きそう。
ミニ店舗が増え、オムニチャネルが加速する
米国小売が新規出店を加速
ワクチン接種が進んでいる、北米での話題。旺盛な消費需要を追い風に、新規出店が米国全体で増えているとのこと。コロナ禍で倒産や休業が相次いだ2020年からの復調は鮮明だ。コアサイト・リサーチ調べによると、2020年は開店数が約3000店、閉店が約8900店だった。それに対し、2021年は3月時点で3000店以上が開店しており、2020年年間とほぼ同等だった。コロナがアメリカでは落ち着いており、消費欲が高まっている証だろう。主役はコスト負担が軽く出店しやすい小型店だ。ECがコロナ禍で定着したことが背景にあり、小さい店舗でもオンラインとの融合をすることで、品ぞろえや集客力を賄えるようになった。
セフォラ:化粧品チェーン
百貨店大手のコールズと提携し、2023年までにコールズの店舗の7割超にあたる850店に小型店を続々と出店する。従来の品揃えが豊富な大規模路面店から機動力の高い小型店に軸足を移すとのこと。今の生活者は使ったことのある化粧品はオンラインで購入するようになっている。そこで、店頭は店員から説明やカウンセリングを受けて、新商品を試してもらう場にする。小型店では新商品中心に並べ、トライアルを促す場になる。それによって、リアルとネットの相乗効果を狙う。
エバーレーン:D2Cアパレルブランド
ECをメインの販路とする女性アパレルの通販ブランド「エバーレーン」は実店舗も展開しはじめた。小型店なので予約制にし、スタイリストがその時間で着こなしを無料でコンサルティングするサービスを始めた。ECサイトを基盤とする強みも活かし、店舗に欲しい服の色やサイズがない場合その場でウェブサイトから注文でき、送料も無料。リアルな接点は小型の店舗で持ちつつ、ウェブサイト連動型のサービスで魅力を訴求するという、コロナ回復後の小売例だ。フットワーク軽く展開し、EC連動を前提とした動きは日本でもあり得そう。メーカーなども一つの新商品を売るために、丁寧に説明して訴求やトライアルする場として小型店を立ち上げる選択肢もある。
今まで店舗は売る場所だった。だが、今後企業にとって売ることがゴールでなくなる。売るという行為を通してUXを提供するという考え方が浸透していくだろう。経験価値ということで考えると、購入前、中、後、それぞれにカスタマージャーニーある。その中で店舗をどう位置付けるか。売り場としてECを統合して戦略していく必要がある。店舗で経験価値を届ける動きは加速しそう。
丸井も店舗の3割を売らない売り場にすると発表した。体験したことを発信する時代になる。経験価値を届けるために大きな売り場は必要ない。ポップアップを行うなど、工夫できる所は多そう。
リユース商品が次のロイヤルユーザーを育てる
リユース市場は2兆円超、2022年には3兆円の見込み
市場を大きく押し上げているのは、フリマアプリの存在だ。ネット販売全体では、1兆2152億円と昨年に店頭販売を上回り、リユース市場の半分以上を占める。今後もネット分野を主体に市場は拡大していくことになりそうだ。また、2021年にはCtoC市場規模がBtoCを上回る見込み。取引されているのは衣料品が多く、2021年5月に「服を捨てられない日がやってくる」とよげんしたように、捨てないで循環する動きが市場でも始まっている。

イケアは回収した6200万個の廃棄家具のうち3900万個を再生し販売
BtoCの取り組み例として、イケアがある。2021年2月、日本のイケア港北店で中古家具の買い取りと販売をはじめた。家具を買い取りした後、整備して販売している。本国のスウェーデンでは以前からあったサービスが、日本でも開始した。今夏までに計9つの郊外店に広げる予定。展開しているコーナーには「サーキュラーハブ 家具に第二の人生を」というキャッチコピーが付いている。2020年は全世界で約6200万個の潜在的廃棄物のうち3900万個を回収し、再販したとのこと。ユーザーから持ち込まれた家具もあれば、自社内で販売できていなかった商品も活用している。サーキュラーエコノミーが具体化してきている例だ。
次のロイヤルユーザーを育てるパタゴニアのウォーン・ウェア
日本ではまだだが、アメリカで行われている事例。ユーザーから買い取ったパタゴニアの中古商品をリペアして、新品よりも安価に販売する取り組み。環境にいいだけではなく、ユーザー育成もしていると評価が高まっている。これまではパタゴニアの価格が高いために購入することがなかった若年層のトライアルのきっかけとなっている。買ってみて商品の質の良さを実感し、正規品を買うようになる。子どものウェアが購入されるケースも多い。子どもは成長してすぐにサイズが変わるので、パタゴニアは選択肢に入ることが少なかった。だが、リユース品だと価格が抑えられるので買い与えやすくなる。着てみると気に入るのに加えて、地球に優しい選択をした気もして気分も良くなる。そんなUXを与えてくれるパタゴニアのファンにもなる。子どもがサイズアウトしなくなれば、正規品を購入するなど、顧客のステップアップがある。ユーザーのライフサイクル、カスタマージャーニーにも寄り添った、UXに訴えるよい施策としてリユース品が活用されている。
「家具に第二の人生」というキャッチコピーがいい。イケアの家具に対する愛情も表現されているようだ。売って終わりではないことを知っている。アメリカでは半導体不足もあり、中古車が売れている。資源がこれ以上使えないとなったら、我々はリユースを本気で考えないと、生活に困ってしまうかもしれない。
企業も売るものを作れなくなった時、リユースを最初から戦略として組み込む必要が出てきそう。最終的に必要なのは「人々に新製品を提供すること」ではない。「人々に何を提供するのか」を考えて戦略することが必要。一つの資源としてリユース、リサイクルを組み込むことがこれからの企業にとって必須になるかもしれない。
作れなくなる、というのが本当に起こりうる時代になった。米中でディカップリングが起これば、物を作りたくても資源が入ってこなくなる。企業は新商品を提供するのではなく、経験価値を提供するという発想になった段階で、パタゴニアの様にリユースやリサイクルの仕組みを作るということが重要。
農業のイノベーションが機会をもたらす
行政の農業に対する支援が手厚くなっており、さらに進むのではないかと思っている。農業のSX(サスティナブル・トランスフォーメーション)も起こりそう。
グリーン農業を目指しEUが農家に51兆円を支援
農業のグリーン化を促すために、EUは環境に配慮した農家への所得支援を行うと発表した。農業は環境破壊をしている構造になったいるものが多い。EUの温暖化ガスの排出量の10%以上が農業分野から排出されているとのこと。2050年にEU域内の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標実現の一助とするために、行政がお金を出してサスティナブルにしていこうという取り組み。今後、さらにサスティナブルな農業の変化が始まっていくのだろう。
EUの農業政策
- 農業分野の温暖化ガス排出削減
- 環境に配慮した農家への支払支援
- 小規模農家・若手農家への支援
- 農薬使用削減、有機農業の推進
- 農家に労働者の権利を守る義務
ロボットとデータを活用し農場を24時間操業。生産、品質管理
農業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)例。デンソーはトマトを収穫するロボに車部品で培ったデータ分析のノウハウを活用。トマトの農場を24時間操業し、生産と品質の管理をしている。生産面では、気候変動で作物の被害が問題になるなか、収穫量を柔軟に調整し、販売ロスなども解消する。品質面ではトマトの画像をAI学習させることで、ちょうどよい具合で熟したトマトを確実に収穫できるようにした。品種管理から流通まで農業全体の「カイゼン」を目指す。これまで機械メーカーだったデンソーが、トマトというナチュラルな分野でサスティナブルな農作物に関わることで、デンソーのブランディングにもなっている。ユーザーに与える経験価値も変わってくる可能性がある。カルビーのジャガイモ、カゴメのトマト、ハウス食品のウコンなど象徴的な農作物をブランドとして持つのは強い存在の企業が多い。農業のSX、DXを通して、新しい機会を手に入れるチャンスがあるかもしれない。
宇沢弘文先生の「社会的共通資本: コモンズと都市」では共通資本の中に農業が入っている。だが、農業は手間もかかり、不確定な要素が多いため、第一次産業としては弱かった。その為に農業から人から離れて工業に流れ、日本は高度経済成長期した過去がある。
農業は成熟事業ではなく、環境面で改善できる面がある。未成熟なので、伸びしろがありそう。
2021年7月の提言:身近にあるモノの良い活用方法を見つけよう
次回の「月間よげんの書」は8月20日(金)の開催となります。ぜひお申し込みください