ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。
「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。
今回は8/25に行われた「月刊:よげんの書8月号」で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。
微生物の働きが二酸化炭素活用のカギとなる
カーボンリサイクル:CCU(Carbon Capture and Utilization)
脱炭素のためのカーボンリサイクルが脚光を浴びている。回収したCO2を原料として化学品を製造する技術は「CCU」と呼ばれる。厄介なCO2を有用な原料に変える技術で長い間取り組まれているテーマでもある。しかし、炭素と酸素を引き剥がし、別の物質に変えるには多くのエネルギーがいるのが課題だった。その課題解決のキープレイヤーとして、微生物の働きに注目が集まっている。
CO2を微生物が「食べる」
基礎化学品は石油から得た成分を800度以上で熱分解して取り出す仕組みを編み出したが、そこには大きなエネルギーが必要となっていた。微生物で分解する場合、常温常圧といった温和な条件でCO2を微生物が「食べる」こととなる。その代謝の過程で有用物質を得ることができ、ゲノム編集を利用することで、有用物質を効率良く取り出せるようになるのだ。
カネカはCO2を栄養源として取り込む「水素細菌」を開発している。水素をエネルギー源に、酸素と反応して樹脂原料の有機物を得て、ストローやレジ袋に使える生分解性樹脂をつくる。生分解性樹脂は分解もされやすいので、とても有用な技術だろう。数千リットルの樹脂原料を得る実証設備を27年度につくり、30年にも実用化する予定だ。
米 ランザテック:繊維原料に
微生物で繊維原料をつくるのは米ランザテックだ。CO2や水素などと微生物を反応容器に入れてエタノールをつくり、洋服を作るためのポリエステルの製造に使う。脱炭素に向けた新しい技術を使った素材をグローバルブランドであるスウェーデン衣料大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)と組み運動服を作り始めている。今後はスーツやタイツも作る予定とのこと。見た目だけでもなく、環境にも良いこの洋服は、H&Mが世界に広げていく新しいブランドとして期待したい。
アルガルバイオ:藻類培養
東京大学発のアルガルバイオが着目したのは、直接CO2を吸収できる藻類だ。藻類を使って健康食品用の成分のほか、容器向けなど幅広い樹脂にできる原料を得る。2020年代に試験設備を設けており、2030年代の実用化をめざしている。木村周社長は「工場や発電所でCO2を効率よく藻類に吸収させたい」と話す。
可能性を秘めているのもそうだが、分解するのが大変な厄介もののCO2を食べさせる視点というのは、今後の研究開発や商品開発にとって大きなヒントになるかもしれない。
筒井康隆の小説で、プラスチックを食べる微生物が出てきた。プラスチックを食べる微生物を発見したら、ノーベル賞を取れるといわれるくらいだったが、いまや微生物はそれ以上の働きをしている。微生物は人類が生まれる前から存在し、激変する地球の環境の中で生き続けてきた。放射性物質も分解する微生物も発見されたというし、進化する微生物に学ぶことはたくさんあるだろう。
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