ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。
「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。
今回は7/21に行われた「月刊:よげんの書7月号」で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。
技術で勝って普及で負けるという悪夢が蘇る
日本は半導体王国とも呼ばれ、30年ほど前は全世界の半分以上を半導体を作っていた時期があった。だが、韓国や中国に追い抜かれてしまい、半導体の分野から撤退することになった。また、カーナビも最初は日本にしかなく、シェアも高かった。最初に技術を発明するものの、シエアが下がって撤退するというのが「技術で勝って普及で負ける」ということだ。
次世代太陽光発電の技術が期待されている
福島県は2040年に再生エネルギー100%で県民のエネルギーをまかなうという目標を立てている。目標を達成するための技術として、次世代太陽光発電の技術が期待されている。その一つがペロプスカイト太陽電池だ。ペロプスカイト太陽電池は薄い、軽い、曲がる、貼れる、製造コストが低い(従来の半分)など、従来の太陽光発電電池とは異なる特性を持つ。また、室内の蛍光灯のような弱い光でも発電するのだ。従来の太陽光発電とはことなる発明となる。発明したのは桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授だ。だが、量産で先行するのは中国。2022年からすでに量産が始まっているが、日本では2025年以降量産が始まる予定とのこと。3年間も遅れれば、製造技術の差が生まれてしまうかもしれない。
発明者である宮坂力さん(桐蔭横浜大学特任教授)は海外の方が先行している理由として「海外での特許出願手続きに多額の費用がかかるため、基礎的な部分の特許を国内でしか取得しなかった。海外勢は特許使用料を支払う必要がなく先行を許す一因となった」と話す。ペロプスカイト太陽電池は効率が悪い部分もあり、普及しないのではないか、という懸念もあったとのこと。宮坂さんは「本来、この分野をリードすべき日本の大手電機メーカーは腰が重い」と話す。これは再エネに対する日本のエネルギー政策そのものも影響しているのではないか。
次世代エネルギーの開発をしても、普及で負けて撤退する可能性がある
2000年代、日本は太陽光パネルの生産でリードしており、日本企業が市場の50%のシェアを持つトップだった。しかし、その後中国が補助金を利用して低価格での量産を開始。市場の80%以上を占めると、多くの日本企業が撤退してしまったのだ。現在もペロブスカイト型太陽電池や浮体式の洋上風力発電など、半分近くについて日本は開発段階で先頭集団にいる。しかし、普及で負けてしまう可能性がある。
再生可能エネルギー技術への世界的な投資競争の加速
- 企業、金融機関などの投資額2022年に160兆円、前年比30%増
- 中国が最も多くの投資を行う(76兆円)
- 米国が2番目に多くの投資を行う(20兆円)
- 日本はドイツ、フランス、英国に次ぐ(3兆円)
有望な脱炭素技術の開発と、政策の重要性
再生可能エネルギーの産業を育てるためには、この技術を活用し、市場をつくる政策が重要になってくる。洋上風力では日本がリードしている部分もあるが、太陽光電池と同じようなことが起こってしまうのかもしれない。日本の産業界、政策含めて、大切に育てる気持ちが大事。ペロプスカイト太陽電池が中国でたくさん作られたとしても、コロナ禍の時のように流通が混乱して輸入がストップしてしまうと、日本で開発したのに、製品が手に入らない事態に陥ってしまうのは避けたい。
ブルーカーボン(2009年に国連環境計画(UNEP)によって命名された「藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素」)などは海に囲まれている日本は最適な場所だ。収益になるまでは時間がかかるだろうが、一度収益が入れば次の投資に回せるので、いい循環になるだろう。
再生可能エネルギーの電源を日本で作ったとして、水素を作ればグリーン水素になる。だが、今の段階では日本は石炭を燃やして水素を作っているので、グレー水素になる。一つの施策が次に繋がっていくのだ。エネルギー施策は長期で見る必要があるので、今からでも頑張ってほしい。
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