聞く技術研究所

【開催報告】月刊:よげんの書2022年5月号(前編)――リミッターを取り払い、サスティナブルなアイデアを考えよう

ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。 「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。 今回は5/20に行われた「月刊:よげんの書5号」の前半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。

自由と協調を問う選挙がはじまる

フランス大統領選でマクロン氏が再選

フランス大統領選でマクロン氏が再選したが、5年前の選挙と比べ、移民排斥・差別主義・EU離脱・親ロシア派の極右ルペン氏が得票を伸ばした。決選投票を行った際も、棄権する票が増加。国際協調しなければならないタイミングに、差別主義の候補者の投票が伸びて驚きだった。

米国中間選挙を控えたバイデン政権、指導力不足とインフレを背景に支持率が低下

2022年は世界的にも選挙が多い年。7月には日本の参院選、10月にブラジル大統領選、11月に米国中間選挙が続く。アメリカのバイデン政権は、指導力不足とインフレを背景に支持率が低下している。このまま支持率の低下が進み、民主党が中間選挙で敗退すれば、さらにバイデン政権の指導力が低下し、共和党支持への支持が増える可能性がある。そうすると、トランプ前大統領の再選や、それによる自国主義・孤立主義外交、世界紛争のリスク拡大につながりかねない事態になっている。

世界GDP比では自由主義が低下

第一生命経済研究所が作成した、米非営利組織フリーダム・ハウスによる各国政治の自由度区分にGDPを掛け合わせた勢力図では、自由主義国の比重は低下していることが分かった。台頭したのは発展、経済成長している中国やロシアなど、非自由主義諸国だ。5月8日の香港行政長官選挙では、親中派の李氏が勝利した。中国の力が働いている選挙とは言われているが、香港が非自由主義国へと確実に進んでいることが伺える。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、自由主義と国際協調の機運が高まるのかに注目している。
1990年代のベストセラーに、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」という本がある。当時はイスラム教と他者の衝突の意味合いが強いのでは、と思っていた。価値観を共有している国同士が結びついて、経済ブロックもできることにより、分断が起こっていく。だが、今考えると、もっと広い意味での文明での衝突が起きている気がする。ESG(環境、社会、ガバナンス)に対する共通の価値観を持つ国と、あまり考慮しない国との間で分断が起こっており、今後は経済安全保障の問題で分かれていく可能性がある。第一次グローバル経済が終わるかもしれない流れ。
徐々に進んでいたことではあるが、ロシアのウクライナ侵攻でより進んだ。プーチンが幕を引くことにより、水面下では続いていた冷戦が本当の意味で終わるかもしれない。

日本にもグリッドパリティの環境がやってくる

世界の電気代が大幅上昇中

ポストコロナや、ロシアによるウクライナ侵攻が響き、世界各国がエネルギー価格の上昇にさらされている。日本経済新聞が発表したグラフによると、ユーロ圏では消費者物価指数で見た3月の電気代が前年同月に比べて41.2%上がった。日本では21.6%の上昇。日本はガソリンの補助金はあるが、電気代の補助はなく、インフレが続いている。世界各国で、ロシアに頼るエネルギー需給構造の転換を意識し、再生可能エネルギーへと転換する中長期の構造改革にさらに目を向ける取り組みが始まっている。

太陽光発電、火力の半値以下に

再生可能エネルギー由来の電気価格が火力発電を下回る状態をグリッドパリティと呼ばれる。欧州や米国、オーストラリアでは2010年代にグリッドパリティになったが、日本でもようやく環境が整ってきた。火力発電に関わる費用が上がった、というのも大きいが、2021年11月以降、太陽光発電の電気代は火力を下回る状況が続いている。2022年3月には大規模太陽光発電所の電気の落札価格が初めて1キロワット時当たり10円を割り、火力発電の半分以下になった。日本でも再生可能エネルギー由来の電気が火力発電でつくる電気より安くなる状態が定着してきたようだ。
EU全体では再生可能エネルギーに対して、30兆円投資するとの発表があった。再生可能エネルギーへの転換を早めないと、脱ロシアにならないからだ。
化石燃料は今後も絶対に値段があがるものだ。ウクライナの件で上がり、新興国の景気が良くなって使用頻度が上がっている。エネルギーの価格は当分上がるので、どう対応するか考える必要がある。化石由来燃料の税金は上がれば、最終的には再生可能エネルギーへの転換がもっと早く進むかもしれない。

ドラえもんのようにロボットと向き合う人が増える

コロナ禍の長期化によりメンタルヘルスの問題が増加

2年以上となったコロナ禍の長期化により、仕事でも学校でも、コミュニケーション不足やテレワーク環境による、メンタルヘルスの問題の増加が続いていると厚生労働省のデータで明らかになった。仕事場では精神障害による労災件数が増えている。学校では黙職や、マスクを外せない環境によりコミュニケーション不足が発生し、メンタルヘルスの増加が続いている。相談しずらい状態が続いているのも課題の一つだ。

同居するロボットに頼られたい

新型コロナウイルス禍で在宅時間が増え、家庭で同居するロボットが家族のような存在となっているという。コミュニケーション用のロボットはもちろん、お掃除ロボット「ルンバ」であっても、一生懸命掃除する姿に愛着を持つ人がいる。アイロボット調べ、つまりルンバに関する調査によると、ルンバを持っている3人に2人がルンバを家族だと思っており、ニックネームを付けている人は6割以上いることがいた。本来は不在の間に掃除してくれるロボットであったのが、在宅勤務の増加により、掃除しづらい場所に四苦八苦する姿を見る人が増えた。それを見かねて、ルンバが通りやすくなるようにリフォームをする人も出てきたりしているらしい。

労働から変わる役割

もともとロボットはチェコ語の「強制労働(ロボータ)」をもじって作った言葉とされる。これまでは名前の由来通り、労働力としての活用・発展してきたのがロボットの歴史だ。しかし、人や動物の姿に似せたロボットが誕生しはじめ、役割も労働にとどまらなくなってきた。国際ロボット連盟によると、2019年の家庭用ロボットの販売台数は約2320万台。23年に2倍以上に伸びると予想している。
マーケティングの視点として、ロボットも愛着を持ってもらうことがより大事になってくるのかもしれない。
キロボミニ、というトヨタのコミュニケーションロボット買ったことがある。色々なことを聞いてくるので、答えると、学習する仕組みだった。
落合 陽一さんが介護は大変なので、ロボットを導入したほうがいい、という発言をしたことがある。それに対して、「でもやっぱり人の手やぬくもりが大事」という人もいた。しかし、「下の世話を異性の若い人にやってもらいたいですか?ロボットにやってもらいたいですか?」と聞くと、黙ってしまった。恥ずかしいから、ロボットに任せたいという人もいるかもしれない。ロボットの効用も発見されていくのではないかと思う。
日本は鉄腕アトムの国なので、ロボットとパートナーシップをもって良い社会を作っていくとよい。

ボピスな買い物スタイルが浸透しはじめる

ボピス(BOPIS)バイ・オンライン、ピックアップ・イン・ストア

ECの商品を店頭で受け取るサービスを米国では「ボピス(バイ・オンライン、ピックアップ・イン・ストア)」と呼ばれる。国土が広大で宅配コスト(燃料と人員的な)が高い米国では浸透が速かった。小売り最大手のウォルマートは3千店以上で導入し、ロボットが短時間で集める仕組みなどを開発した。巣ごもり需要で利益を上げたので、その利益をピックアップセンターの作成にあてた。それくらい力を入れた施策だった。ボピスは事業者側のメリットは分かりやすい。一方で、生活者のメリットもある。ライフスタイルに合わせてボピスを選ぶ人が増えている。

ワークマン宅配全廃、店頭受取一本化へ

ワークマンは2月、約150品目のEC専用商品を「店頭受け取り限定」でテスト発売した。送料負担を嫌って店頭受け取りを選ぶ顧客が現状でも約8割に達している。「全国に500店以上あれば店頭受け取りで問題はない。不満の声はほとんどない」と話す。 2027年3月期末までにECの商品受け取りを、店頭に一本化すると発表。ボピスにすることで、梱包・発送資材も作業が不要でコストが大幅に下がり、来店によるついで買いも見込める。また、ラストワンマイル配送の人手、配送コスト、エネルギーもなくなる。環境にもいい。日本でもボピスが広がるきっかけになるかもしれない。
エネルギーの費用が上がると、ラストワンマイルのコストが上がる。今は送料無料にしている通販会社はどこまで耐えられるかが疑問。出かけるついでに受け取ってもいい、という人もいるだろう。今後は配送ドライバーが不足すると言われている。また、働き方改革で人件費が上がる。エネルギーも上がる。梱包のコストも上がる。そう考えると、配送無料でどこまで耐えられるか分からない。いずれ、店頭受け取りが標準になる可能性もある。

一生使えるサスティナブルな商品が支持を集める

一生ジャストサイズで着られる洋服を開発、販売

アメリカのRedThread(レッドスレッド)というアパレルブランドは、一生ジャストサイズで着られるパンツ、ジャケットなどを開発、販売している。レッドスレッドは洋服のサイズを撤廃し、すべてオーダーメイドでサイズを調整しジャストフィットの洋服を届けるブランドだ。テクノロジーで支えられており、写真2枚を送るだけでサイズを計算することができる技術を開発。ネット注文してもジャストサイズが届くという仕組みだ。付加サービスとして、体型の変化に合わせて一生無料で洋服をリメイクしてくれる保証が付いている。つまり、洋服の購入後も体型の変化に悩まされることなく、常にジャストサイズな服を着ることができるのだ。妊娠・出産などのライフステージの変化にも対応できる洋服になる。

ふとんタナカ ― じぶんまくら。ずっと無料メンテナンスの枕

スタッフのカウンセリングを受けて作られるオーダーメード枕がある。寝心地や体調に合わせて中材の種類やつまり具合を調整して作られる。また、いつでもずっと無料メンテナンスを行い、体調の変化、季節の変化、年齢の変化などに応じて何度でも再調整が可能。一生使える枕なのだ。価格は27,500円~と高価だが、一生使える枕ということで、販売数は100万個を突破した。サステナブルなのも支持される一つの理由だろう。
ライフタイムバリュー、生涯価値が一生続く関係をどう作るか。顧客と自社が一生続く関係をどう作るかが、サービスも含めて課題になっている。商品でそれを応えてしまおうということだろう。このような取り組みは今後増えるかもしれない

2022年5月号の提言――リミッターを取り払い、サスティナブルなアイデアを考えよう

他社より機能が少なくても、高価格になっても、実現までに時間がかかってしまっても、持続可能な商品・サービスはそれを求める人は必ずいるでしょう

次回の「よげんの書」は6月17日(金)の開催です。ぜひお申し込みください