聞く技術研究所

【開催報告】月刊:よげんの書2022年4月号(前編)――戦時のふるまいに切り替えよう

ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。 「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。 今回は4/22に行われた「月刊:よげんの書4月号」の前半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。

IT&SNSが侵略者から国を守る盾となる

ウクライナ市民、SNSレジスタンスとして抵抗

テクノロジーやヒューマンネットワークの視点から眺めた、戦時の行動の紹介。ウクライナ政府は侵攻が始まった直後から、通信アプリ「テレグラム」に「ロシアの戦争を止めろ」と題した専用の窓口を設けた。市民はフォーマットに沿って、ロシア軍を目撃した場所、時間、何を具体的に見たのかなどを送ることができる。その情報をウクライナ軍が精査のうえ作戦に役立てる仕組み。ロシアとの戦いに、ウクライナ国民や周辺国など反ロシア側の市民がSNSを活用してウクライナ軍を支援しているのだ。SNSのフェイクニュースの課題や問題も取り沙汰されており、情報の精査に心を配る必要はあるが、一方で市民の善意の行動で身も守ったり、持続可能な環境を作ることに貢献している。テクノロジーがあったことで貢献できることだ。

IT大国ウクライナ、企業がアプリ開発等で抵抗

ロシアの侵攻を受けるウクライナでスタートアップ企業がアプリ開発などの技術を使い、抵抗運動を続けている。ウクライナは約30万人のIT技術者を抱え、近年は海外企業の開発委託先として注目されていた。 ソフトウエア開発はパソコンがあれば進められる。ソフトウェアを開発している企業はテレワークができるところが多い。つまり、自国から避難していたとしても、遠隔からソフト開発、アプリ開発で自分たちの国を守る行動をとることができる。人のネットワークとテクノロジーを活用して、軍だけでなく、一般の企業やテクノロジー人材が戦争下での情報共有や発信を側面から支えている。
エストニアはデジタルガバメントの先進国である。それは、ロシアが攻めてきたときに、国民がバラバラになってしまったとしても、繋がっていられるようにしよう、というのが最初の目的だった。ウクライナもデジタルガバメントが発達している。すべての人にIDが配布されており、ネットが活用されている。

戦時のリーダーが評価を集める時代が訪れる

ゼレンスキー大統領の演説

ゼレンスキー氏はタレントとして舞台やテレビで活躍したコメディアンだった。平時はその背景をからかわれたり、揶揄されたりしていた。だが、ロシア軍の侵攻後、自分の考えを公開する動画などをSNSを通じて公開し、国民を鼓舞してきた。自国内だけではなく、主要国の国会でもビデオ会議で演説し、世界中の議員や有権者の心を動かそうとしている。各国の演説の際は、演説する国の過去にあった戦争の歴史を引用するなどして、侵略がウクライナのことだけでなく、自分ごとにしてもらうため、ナラティブなこととして捉えてもらうようにしていた。 引用:産経ニュース/西日本新聞

ウクライナ支援に積極的な各国首脳の支持率が上昇

ロシアの軍事侵攻が始まって以降、フランスや英国、ドイツなどの首脳の支持率が上昇している。ウクライナ支援のための積極外交や安全保障政策の転換が評価につながっているのだ。戦時に対応し、しっかり発信している首相は評価が上がっている。コロナ禍にパーティに参加したとして非難されて支持率が22%に低下していたジョンソン首相も、3月には30%に上昇していた。 一方、バイデン米大統領は支持率回復につなげられていない。戦時の行動が伴わないと思われているのが要因だと思われる。ロシア侵攻への対応について47%が賛成し、反対は39%だった。85%がロシアへの経済制裁を支持した。

ベン・ホロウィッツHARD THINGS -2015-答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか

平時のCEOと、戦時のCEOでは、求められているものや役割が異なることを述べた本がでた。比べてみると、戦時のリーダーの行動は激しいものだ。しかし、今は戦時のリーダーのふるまいが必要なのではないかと思うこともある。 平時の行動を戦時に変えなければいけない。行動を変えられたリーダーが評価されたのだろう。
危機の時はリーダーが必要になるし、リーダーによって安心感を得たいと思う人が多くなる。戦時の時はそうしないと、物事が進まないこともある。一方で、ショックドクトリンも起こりうる。便乗してくるものが必ず起こるので、注意が必要だ。連帯感をもって成し遂げるのは大事だが、リーダーが暴走しないようなバランスが大事。

配信環境が文化の地域格差を解消させる

2020年4月 ― Covid-19禍のはじまりの頃、トラヴィス・スコット、フォートナイト内でライブを開催

アメリカのラッパー、トラヴィス・スコットが、フォートナイトというゲーム内でバーチャルライブを開催した。3日間で1230万人が集い、21億円の売上を上げた。この売り上げはトラヴィス・スコットが2018年から2019年に開催した、4ヶ月間56公演のワールドツワーで得た56億円の売上と比較しても多く、ソーシャルディスタンス環境でも全世界同時アクセス可能なバーチャルライブの可能性が話題となった。ニューノーマル時代のライブを感じるものだった。

2022年3月 ―ソウル市内でのコンサートBTS、3日間で100億円の売上

BTSは3月10日、12日、13日にソウル市内で、2年半ぶりに観客を動員したライブを開催した。ライブ会場の他、75の国・地域の3711カ所の映画館で同時中継し、オンライン配信によって世界191カ国・地域の合計246万人が視聴した。有料視聴を合わせて、公演3回の売上高は100億円を超えた。エンタメ業界はコロナでかなりダメージを受けた業種だが、ピンチをチャンスに変えた業界でもある。ライブなどにはコロナ前より人が集まるようにもなり、同じ時間に楽しめる環境を作ることで、大きい利益を上げられるようになった。
今はリアルのデジタルの垣根がなくなっている。リアルタイムに共有していくのが価値になっていく。SNSでも繋がれる時代になった。
以前、金曜ロードショーなどでラピュタがテレビで放映されると、みんなが同時刻に「バルス」と呟くことでtwitterが落ちたこともあった。共感はエンターテイメントになる。

ポップカルチャーもIT企業が覇権を握る

2022年3月に第94回アカデミー授賞式開催

最も注目が集まる作品賞の候補作は10作。日本映画としてはじめて「ドライブ・マイ・カー」が作品賞の候補作としてノミネートされた。94回アカデミー賞の中で、全編英語以外の言語で作られた作品はまだ10作品しかノミネートされてなく、世界的にも快挙。当日の話題としては、主演男優賞を受賞したウィル・スミス氏のプレゼンター クリス・ロック氏への平手打ち事件があった。賛否両論分かれる行動だった。ドライブマイカーのノミネートもそうだが、アカデミー賞はコンサバで、自国贔屓の賞だと言われていた。だが、最近は多様性にも心を配っている。受賞する作品や俳優も多様化されてきており、壇上のふるまいも今の時代に即しているかどうかが問われるようになった。

アップル配給:コーダ あいのうたアカデミー作品賞を受賞

アップルは動画配信サービスを始めて、わずか3年で配信作品がアカデミー賞を受賞するという、ネットフリックスも実現できていなかった快挙を成し遂げた。アップルは資金力はもちろん、映画としての評価を得るための戦略や映画にかける情熱に関しても持ち合わせていることを監督や俳優に示したことになる。本年度アカデミー賞の最大の勝者は、授賞式にも参加した、ティム・クック氏だったのかもしれない。時価総額ナンバーワンの企業がエンタメ業界でもナンバーワンを取ったことは大きな出来事だ。

接客時のあうんの呼吸をAIが察するようになる

カメラで表情を読み「オススメ」メニュー提案、7割的中

顔の表情を人工知能(AI)が読み取る技術を接客や安全機能に生かす取り組みが進んでいる。沖電気とサブウエイの取り組み。カメラで表情を読み、メニューを提案する仕組みが店頭で行われた。
  1. サンドイッチ店「サブウェイ」で、注文端末の前に立つと、20種類のメニューのうち6つが画面に表示される。
  2. 気になったメニューを眺めていると、興味のないメニューがゆっくりと回転して別の商品に切り替わり、別のオススメのメニューが提示される。
わずかな表情の変化をAIが推定して絞り込んでいく、おすすめを決める仕組みだ。的中精度は7割だった。店頭もニューノーマルが始まっており、変わってきている。店員がいままでお客を見て察していたことが、AIが表情を読むことで対応していくようになるのかもしれない。

ドライバーの疲労や怒りなどAIで表情を判別

スウェーデンのスマートアイはドライバーの疲労や怒りなどAIで表情を判別し、運転手が疲れていたり、怒っていたりすると判定した場合、AIを組み込んで連動した車載システムが休憩を促したり、音楽をかけて怒りを静めたりするのを促す仕組みを実施。同社はよそ見や居眠り運転を防止する視線検知システムをドイツBMWや日本の自動車メーカーに採用された実績がある。スマートアイでは、視線だけではなく、表情全体を読み取ることによって精度を高めて、気配りをしている。目元や口元を細かく20種類以上に分けて解析して判定している。

米アフデックス:心sensor for Training AIで表情トレーニング

カメラを搭載したPCやタブレット端末上で利用できる表情トレーニングアプリをアメリカの会社、アフデックスが開発した。良いと思う笑顔を作ると、カメラが捉えた応対練習中の表情筋の動きを感情認識AIが解析、どのような印象を与える表情であったか採点し、アドバイスもする。派遣業を行っているリクルートスタッフィングや明治安田生命が採用し、笑顔を保つことで派遣先の職場の人や顧客などと良好な関係を構築するのを後押しする。
zoomなどビジュアルコミュニケーションをすると、自分の顔をリアルタイムに見ながら話をするはじめての体験。鏡の前で話しているようなものだ。今までは自分がどう喋っているのか知らなかったのが、知れるようになった。画面を介したコミュニケーションは今後も増えるだろう。その中で、自分をどう見せるか、どう印象付けるか、映える化粧や着るものの配色などこれからより気になりそう。
店頭でも店員がいなくても、自分のことを察してもらえる環境ができてくるのかもしれない

2022年3月号の提言――戦時のふるまいに切り替えよう

Covid-19のパンデミックから始まった2020年代は想像もできないブラックスワンな出来事が頻出し、世界の常識が変化し続けています。平時のふるまいから戦時のそれに切り替えて、考え・行動していきましょう。

次回の「よげんの書」は5月20日(金)の開催です。ぜひお申し込みください