聞く技術研究所

【開催報告】月刊:よげんの書2022年3月号(後編)――アイデアをリサイクルしよう

ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。 「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。 今回は3/18に行われた「月刊:よげんの書3月号」の後半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。

再雇用氷河期がやってくる

「高齢者雇用安定法」の改正によって、企業には従業員の70歳までの就業機会の確保に向けての努力を義務づけられている。人口減少による労働力不足と、年給支給年齢の繰り下げ問題を解決するためだ。下記のいずれかの措置を講じるように努める必要が生じた(厚生労働省資料より)
  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳までに継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    1. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
    2. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
役職定年でガクッと給料は下がる。再雇用でさらに給料が下がる。役職定年になったとたん、意思決定に関わる仕事から外され、ルーチンワークを任される傾向がある。

これから過剰になる仕事、不足する仕事

三菱総合研究所推計の「人材が余る仕事と不足する仕事」では、事務職、生産・運輸・建設職が過剰になり、専門職が不足と予想されている。 70歳まで働けるようになったとしても、与えられる仕事は過剰になっている仕事ばかりで、働き手市場とのミスマッチが起こるかもしれない。スペシャリストの要望に応えられなくなってしまうのだ。

人材ポートフォリオのバランスはいびつ

仕事を「タスクモデル」を使用して「ルーティン(定型的)」か「ノンルーティン(創造的)」、「マニュアル(手作業的)」か「コグニティブ(頭脳作業的)」で分類すると、2015年の日本で一番多いのは、「マニュアル、ルーチンワーク」で44%、次に「コグニティブ、ルーチンワーク」。少ないのは「ノンルーティン(創造的)」の分野で、技術職やスペシャリストが多く配置されている部分だ。 ダニエル・コーエン(パリ経済学院 教授)は「デジタル化の社会では、ただルーティンを繰り返す勤勉さや言われたことだけをすることが、いちばん存在を脅かされるのです。」と発言。 日本人にとって勤勉さは美徳だった。言われたことをきちっとやることだ大事だった。だが、その労働観も変える必要がある時代になる。そこを変えないと再雇用氷河期を乗り越えられないかもしれない。
チップ・コンリーの「モダンエルダー」では新しい年長者について書かれていた。これまでの経験を若い人に伝える技術、EQ(educational quotient=教育指数)を鍛えるのが大事だという記載があった。優れた判断力と、洞察力と、心の知能指数、行使する力がの「モダンエルダー」には必要だという。ITのスキルは置いておいて、これまで経験したことに基づいて力を発揮することだ大事。そうすれば「コグニティブ(頭脳作業的)」の分野でも活躍できるようになるのではないか。
「モダンエルダー」になるためには、勉強も必要。リスキリングなどで、学びなおすことも大事。

マミーギルト軽減が課題になる

東京都が行った2021年度の男性の家事・育児参画状況調査によると、コロナ禍で女性の家事・育児負担が増加したという。家事、育児、介護は女性がやるべきという固定観念がある人がいるようで、まだ女性の負担は大きい。男性が「家事をやっている」と主張しても、実際には女性が担当している部分も多い。

仕事と家事を両立する上で、子供や夫、周囲に罪悪感を感じる人は4人中3人

日経ウーマノミクス・プロジェクトアンケートによると、仕事と家事を両立する上で、子供や夫、周囲に罪悪感を感じる人は4人中3人だった。「家事などを私がするはずなのに、仕事をしているからできない。仕事する上でも同僚に迷惑をかけている」という罪悪感なのかもしれない。固定観念や個々が持っている「常識」を変えて、とらわれすぎないことも大事。

手を抜くことに対しても許容性を持つ

雑誌「VERY」の特集で、「かまへんマインド」で家事育児から上手に手を抜く方法を伝えていた。罪の意識を感じず、自分ができる範囲で手を抜くことに対する許容性は大事。
3月に発表された警察庁の発表で女性の自殺数が去年に引き続き今年も増加していたという。自殺原因の一位は健康問題、次に家庭の問題だった。罪悪感、ギルトを感じすぎると、メンタルヘルスの問題も起きてしまう。「かまへん」の気持ちは大事だし、マミーギルトに対して許容する発信がたくさん出て意識が変わる人が増えるといい。

女性正規社員の方が未婚率が高いことがわかる

90年代以降、未婚が大きな少子化の原因になる

合計特殊出生率の要素分析したところ、1950年代までは母親が産む子どもの数が少なくなったことによる出生率の低下だった。都市型の生活になり、4人家族が標準になっていったことが原因だ。90年代以降、配偶者要因の少子化が増えている。つまりは、そもそも結婚していない人が増えた。晩婚化も増えてはいるが、厚生労働省の統計によると、50歳の未婚率(生涯未婚率)も上がっている。男性は4人に1人以上が結婚していないということだ。女性も2割に迫る数だ。未婚が少子化の大きな要因になっている。

未婚理由の男女差は「就業状況」にあった

国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によると、独身でいる理由は「相手にめぐり合わない」が半数。次に「自由や気楽さを失いたくない」「まだ必要を感じない」が続く。その中で、一番大きな男女差があったのは「就業状況」だった。男性は非正規雇用だと、未婚が多い。稼げない男性は結婚する上での生活費などに不安があるのかもしれない。女性は逆に、正規社員の方が未婚率が高い。一人で生きていける感覚の人が多く、結婚することで負担を感じる人がいるのかもしれない。少子化に対しては、女性の正社員を増やし、かつ、結婚して子育てしてもキャリアを損なうことない制度、社会を作らなければいけない。
4月から育児介護休業法が改正される。分割育休が取れるようになり、男性も女性もとれるので、交代で育休をとることができるようになる。交代でとることによって子どもと過ごせる時間も増え、両親の負担が少し減るのかもしれない。

高齢者によりSDGsが活気づく

高齢者の間でSDGsの認知率が上昇。2倍近くに

電通調べによると、SDGsの認知率が50代、60代など年齢層の高い人の間で上がっている。2020年と2021年を比較した時、1年間で倍以上認知率が上昇した。若年層は授業などで触れる機会がある。ハルメク生きかた上手研究所が行った調査によると「SDGsに繋がることに取り組みたい割合」は70代が一番高かった。SDGsを知り、世の中をよくしたい、と思う人が多いのかもしれない。 株式会社ハルメクホールディングスからの引用は以下。
今回の調査でシニア世代の方が「SDGsの情報を知りたい」「今あるものを生かしたい」「(余命が限られている影響も考えられますが)今すぐ取り組みたい」という意識が若年層よりも高いことが証明されました。 驚いたのは、70代がSDGsへの取り組みに最も意欲的だったということです。 70代は、高度経済成長やバブル景気を経験してきました。本人たちからは「次世代のために自分達の責任を果たすべき」(北海道の75歳女性)「便利に慣れ過ぎることへの反省がある」(神奈川県の70歳女性)という次世代への意識や反省の念が見られました。
60年代、70年代の貢献意欲が高いのは、どこかに贖罪の気持ちがあるのではないか。

貢献意欲のある人に、もっと参加を

日銀、総務省のデータによると、60歳以上の家計金融資産残高はかなり多い。日本の個人金融資産は2千兆円を超えたが、6割以上が60歳以上の人が保有しているそうだ。比較的余裕がある世代なので、彼らにSDGsにつながる消費をしてもらうのがいいだろう。使命感をもっと与えてもいい。
世界では世代間闘争と言われており、グレタ・トゥーンベリさんが有名だろう。Z世代が怒っているのは、これからの地球で暮らしていく若い世代に比べて、その上の世代が無責任で無対応であることだ。だが、SDGsの認知が広がり、やらなければならないことを考える人が増えるのはよいこと。
SDGsに対して、何をしていいのか分からない人もいるかもしれない。マインドセットができたら、今度は「こうしましょう」という行動も伝えるのが大事。どう貢献できるのかがつながっていない人も多そうだ。そう考えると、企業もそれぞれSDGsに取り組んでいるが、生活者を取り込んで進めていくことも大事。SDGsの対応は、お金がかかることも多い。高齢者を巻き込むのも一手だ。

GCFが立ち上がる

ガバメント・クラウドファンディングとは

GCF=ガバメント・クラウドファンディング。ふるさと納税の仕組みを使って、政府がクラウドファンディングすること。ふるさと納税は返礼品やお得感で人気がでた。次は自治体が「こんな課題があって、こんなことに使いたい」と主張し、ふるさと納税の仕組みで寄付する仕組み。

自治体の新しい資金調達の方法になるか

鎌倉市の岩岡寛人教育長は、時代の変化に対応した資質を引き出すプログラムは「私立校ではできるが公立学校では難しく、格差が広がりかねない」との思いからファンドによる資金調達を立案したという。ふるさと納税の仕組みを使い、寄付金を行政サービスに活用するGCFは、インターネットサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・渋谷)が始めた。鎌倉スクールコラボファンドでは寄付した住民から「子どもたちの豊かな学びのために活用を」といったメッセージが届いた。鎌倉市の岩岡教育長は「他の自治体にも広がってほしい」と期待する。
SDGsに貢献したいという人もいるので、お金を持っている人に届くようにできたら、自治体の課題に対して今までと違う資金調達ができるようになるだろう。GBFで実施されたプロジェクト総数は1420を超え、実施した自治体数も470以上だ。地方自治体はお金がない、税収が少ないこともある。地方交付税に頼ると地元でうまく使えないこともある。このような、ふるさと納税でお金を集める仕組みを使ってもいいだろう。これで資金調達して、再生可能エネルギーを自治体でやってもいいし、成功事例にしてほしい。
社会課題貢献型のクラウドファンディングもコロナ禍で成長した市場の一つだろう。 コロナ禍により、来客数が減って困っている飲食店を支えるために、予約券の購入などでクラウドファンディングを活用した人もいた。コロナ禍は今大変だが、ガバメント・クラウドファンディングは未来への投資。そのような視点で協力が増えるといい。

2022年3月号の提言――アイデアをリサイクルしよう

すでにある制度やアイデアを応用し、新しい価値を生み出すことができるかも知れない。いいアイデアに出会ったら、そのアイデアをビジネスに応用できないかを考えるアイデアをリサイクルしよう。

次回の「よげんの書」は4月22日(金)の開催です。ぜひお申し込みください