聞く技術研究所

【開催報告】月刊:よげんの書2022年2月号(前編)――拡張した先にあるものを考えよう

ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。 「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。 今回は2/18に行われた「月刊:よげんの書2月号」の前半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。

コロナによる体力と寿命の低下が明らかになる

欧米で平均寿命が第2次世界大戦以来のマイナスに

オックスフォード大学などのチームが欧州と米国の2015~19年の傾向と、感染が拡大した20年の平均寿命を比べたところ、スペインやイタリアなどが第2次世界大戦以来最大のマイナス幅になっていた。最も平均寿命が縮まった米国では、女性が1.65歳、男性が2.23歳も短くなった。男性の方が短くなった理由として、肥満や基礎疾患を抱える人が増えてことなどが関係していると言われている。世界の人口減少が始まるのではないかと予測されているが、コロナの流行により平均寿命までも短くなってしまっている。大きな転換の始まりを予感させるデータだ。

小中男子、全国体力テストで調査開始以来最低の結果に

日本はコロナが起こっても、平均寿命はあまり変わっていない。だが、心配なこともある。スポーツ庁が実施する小学5年と中学2年を対象にした体力テストの2021年の結果によると、Covid-19の感染拡大前と比べて体力は一様に低下していた。小5男子は体力テストの開始以来、最低の点数になった。同庁は体力低下の原因について、「かねて指摘されてきたスマートフォンの利用時間の長期化による運動不足や肥満の児童生徒の増加が、コロナ禍による外出制限で助長された可能性がある」と分析する。
北京オリンピックが盛り上がっており、スポーツで活躍する若者がいる。一方で、環境によって体を動かせないことにより、スポーツの発展の阻害要因になっては勿体ない。
日本は他の国と比べて様々なランキングの順位が低い傾向がある。誇れるのは平均寿命と、平均健康寿命が長いこと。他のランキングでもよい位置に付けれたらいい

体力と健康、社会課題を人間拡張で支える

人間拡張とは

人間拡張とは、人に寄り添い人の能力を高めるシステムのことです。人間が本来持つ能力の維持・向上(体力、共感力、伝達力など)、生活の質の向上(満足度、意欲などの向上)、社会コストの低減(医療費、エネルギー、未使用製品などの低減)、産業の拡大(製造業のサービス化の推進、IoTを用いて生活データを蓄積し、AIで価値ある知識とする知識集約型産業の創出)を目指します。 (国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センターより)
使う技術としては、センサデバイス、ロボティクス、バイオメカニクスなど。介護や労働の分野で役立てるように活かすことを目標としている。

米シンクロン、ALSを患う人の意思疎通の能力を拡張

ALS(筋萎縮性側索硬化症)などで筋肉が衰えてしまい発話ができない人でも、脳にチップを埋めることで電気信号を読み取り、デバイスを利用することで意思疎通の能力を拡張する技術開発を進める。2021年12月下旬、脳から読み取った情報をもとに、被験者のフィリップ・オキーフ氏がSNSのツイッターへ短文の投稿に成功した実績もある。

ローガン・ビジョン、消防士の視力を拡張

カナダの会社であるローガン・ビジョンが消防士の視力拡張の取り組みをしている。火災現場などの薄暗い場所や煙が充満した場所でも、対象物を識別できる技術を開発した。消防ヘルメットに目の前方に画面が下りるヘッドマウントディスプレーを取付、サーモグラフィーなどを使って障害物や倒れた人の輪郭を検出する。視界が悪い劣悪な環境でもスムーズな消火活動や人命救助が可能となる。
より身近な所では、農業に携わる人の筋力をサポートするパワースーツも普及が始まっている。マーケティングでも、拡張したらより便利になるところはどこだろう、という視点を持つことも大事。
装具、義足、義手は失った四肢を補うために開発、発達されたものである。今は技術開発が進み、パラリンピックとオリンピックの100m走のタイム差は1秒ほどになった。10年ほどでかなり発達をした分野だ。もしかしたら、装具を付けた方が早く走れる時代が来るかもしれないと言われている。これまではマイナスからゼロにするために開発されていたが、今後はプラスに向けて開発されるかもしれない。補聴器も100m先の人の会話が聞こえるようになるなど、普通の人も欲しい、と思うような人間拡張が出てくるかもしれない。

家庭内の不公平が加速する

コロナ前から、特に日本では家事負担に不公平があった

家事・育児の負担はもともと女性に偏る傾向があった。OECDがまとめたコロナ流行前(2009年~2018年)のデータによると、家庭内の「無償労働」に割く時間は多くの国で女性の方が長いことが分かった。日本では女性が男性の5.5倍、韓国が4.4倍無償労働しており、女性が家庭内の「無償労働」に割く時間が長いのはアジアが目立つ。だが、米国(1.6倍)やフランス(1.7倍)も少なからぬ差がある。

コロナ後に不公平が加速

新型コロナウイルス下で在宅勤務をはじめ、柔軟な働き方が広がった。誰もが家庭にかかわりやすくなったと思いきや、世界的に夫婦の間で家事や育児に充てる時間の差が拡大しており、女性の負担が増している。国連が出した2020年11月のリポートによると、計38カ国・地域の調査で、家事などに費やす時間が増えたと回答した女性が60%と、男性の54%より多かった。日本でも内閣府の2021年秋の調査で、家事・育児の時間が増えた割合は女性が44%で、男性の38%を上回った。

ダブル・ダブルシフトは変わらず

フェイスブック COO ― シェリル・サンドバーグがコロナの始まりの頃から警鐘を鳴らしていた。
パートナーと子どもがいてフルタイムで働く米国人女性は、パンデミックのはじまりに負担が大きく増した。3時間以上の家事と、5時間以上の育児・家庭学習、1時間半の親族の介護。ここに仕事が待っている「ダブル・ダブルシフト」の状態です。
新型コロナウイルスは子どもたちへの感染も広がっており、学級閉鎖や幼稚園/保育園の休園も多く発生した。そうすると、どちらかの親は家にいなくてはならなくなる。在宅で仕事ができたとしても、合間に家事や、子供の世話もする必要があり、プラスアルファの負担になっている。コロナ流行から2年たってもその状況は変えられておらず、不平等が起こっている家庭がある。今の政治は「成長と分配」を掲げている。無償労働の部分や、家事の分配について企業側も何か提案できることがあるのではないか。
在宅勤務で家に夫がいたり、学級閉鎖によって子供が家にいることによって、毎日お昼を家で食べるようになった。それに伴い、ご飯を作る負担が増えたという女性が増加したのが背景にある。解消のためには、考え方自体を変えて、食事の用意や、育児は女性のもの。という固定概念から脱却することが必要になる。

グルメな自販機が自粛生活の食欲を刺激する

負担が多い家事の助けになるのではないかと思われる話題。最近美味しい自販機の話題が多いように思う。一つの例として、飲食店のリンガーハットが店外に置いた自販機で冷凍食品を販売始めた。深夜1時までや24時間営業していたリンガーハットは、コロナ禍を受けて午後11時に閉店を早めた。冷食は従来、営業時間内に店内で販売していたが、テレワークなどで長く家で過ごす人びとが「店の味が食べたい」と思ったときに手に取れる機会を増やす取り組みとして始めた。自販機を5店で先行導入すると、12月の冷食売上高が9月比で2.5倍に急増した。お店の中だけでなく、外で食べる機会を増やすことができている。2022年中に55店まで増やす計画だ。

進化系・コーヒー自販機、AIカフェロボット:ルートC

ルートCは駅や商業施設に設置されている、挽きたて、煎れたてのコーヒーを提供する自販機。注文から決済までスマホアプリで完結し、商品と受取場所・時間を指定すると、その時間に合わせてコーヒーを淹れて提供している。移動中や、家を出る前に注文することができるようになった。また、利用者が飲んだコーヒーの感想を登録すると、より好みのコーヒーをAIが提案する機能が追加されている。サブスクにも対応しており、定額飲み放題のプランがある。利用者は月平均55杯も飲んでいるらしく、しっかり元を取っている人が多いようだ。

米国発冷凍自販機:ヨーカイ、体験店舗/b8taに登場

米ヨーカイエクスプレスが開発した冷凍自販機『ヨーカイ』は、独自のスチーム技術で冷凍保存した食材を短時間で加熱調理できる機械だ。ラーメンであれば1分程度で調理が完了する。『ヨーカイ』の仕様に合わせて、様々な飲食店が丼やパスタなどの対応商品を用意し始めている。米国ではオフィスや大学などで導入が進み、電気自動車(EV)のテスラも採用して話題になった。
ハイテクな自販機の登場によって、消費者との新しい接点が生まれ、新しいコミュニケーションも生まれている。自販機に向けての商品開発なども今後あるかもしれない。
ハイテクな自販機はスタートレックを思いだす。将来的には3Dプリンタのようなもので料理を作れるようになるかもしれない。物質を再構成するなど、それに近しい体験ができるのかもしれない。日本が得意な技術の一つではないか。

ダイナミックプライシングがサスティナブルのカギとなる

ロスを減らすために、ダイナミックプライシングの取り組みが様々な業界で始まっている。

イトーヨーカ堂、消費期限に応じて価格変動することで食品ロス削減に

イトーヨーカ堂は日本総合研究所などと組み、1月12日からダイナミックプライシングを活用した食品ロス削減の実証実験をイトーヨーカドー曳舟店で始めた。仕組み自体は高度なテクノロジーを使っているわけではなさそう。消費・賞味期限までの日数に応じて商品にA、B、Cなどのシールを貼り、複数の価格で販売している。シールの種類によって異なる金額がプライスモニターに表示される。最も消費・賞味期限の長い商品を通常価格で販売し、期限が短くなるにつれ値引き額が増える仕組みだ。ダイナミックプライシングは様々な方法で実施されてきたが、イトーヨーカ堂の取り組みはシンプルだが、消費者が手に取りやすい。

EVの充電を変動料金にし、充電集中を回避

これから普及が進むであろうEV。EV時代の到来を見据え、消費者に利点のある形で充電集中を回避するシステム構築が進んでいる。車の充電時間帯に応じて料金が変動する「ダイナミックプライシング」を導入する動きが出始めた。三菱商事や出光興産などは、電気料金を割り引く時間帯を顧客に「LINE」で通知することで電力が集中する時間帯を避け、充電時間を昼間や深夜に誘導している。再生可能エネルギーは天候や環境に左右されるので、供給の調整が難しい。電気が作られているけれども、使われない時間帯があると勿体ない。「LINE」で通知をすることですぐに情報を届け、充電してもらうことで上手く巡回する仕組み。サスティナブルに貢献できる取り組みなのではないか。
イトーヨーカ堂の3つのシールでダイナミックプライシングを行う取り組み、20%引き、と書いてあるシールを手に取るより心理的負担は少ないかもしれない。20%引きばかり買っている人、という見られ方をせずに済む。敬遠される消費者心理を越えられるものになるかもしれない。
発電の電気は中々貯めておくことができない。その反面、車は充電すれば電気を貯められる。安く電気を使える時間帯に、車だけでなく、持っている機器を全部充電できたらいい。

拡張した先にあるものを考えよう

五感と五体を拡張したらなにができるのか、小売・喫茶店・ラーメン店を拡張するとなにができるのか。拡張する技術が数多くある環境の中で、広げた先でできることを考えよう。

次回の「よげんの書」は3月18日(金)の開催です。ぜひお申し込みください