ドゥ・ハウスでは毎月「よげんの書」セミナーを開催しています。
「よげんの書」では日本国内に限らず、世界の経済、政治、エンタメなど、多角的な視点とデータで「今」何が起きているのかをご紹介しています。時代の流れを捉えることで、企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のテーマを掴むヒントを得る一助になれば、と願っています。
今回は12/17に行われた「月刊:よげんの書12月号」の後半で発表された内容をご紹介します。よげんの書は大久保氏と舟久保のテーマ発表&コメントで構成されており、開催報告ではセミナー中に取り交わされたコメントなども記載します。
恋愛結婚が過去のものとなる
1970年代から恋愛結婚が主流になった
1970年代以前、結婚のきっかけはお見合いが多かった。しかし、時代が移ると見合い結婚なんて恥ずかしい、恋愛結婚の方がいいという時期になる。現在では、恋愛→結婚というプロセスでは、結婚したいもの同士が出会える確率が低くなった。恋人同士になったとしても、恋愛と結婚は違うという感覚を持つ人や、必ずしも結婚を望まない人が出てきたからだ。また、性的指向・性自認をよりオープンにできる環境が整いつつあり、好きになった相手の恋愛対象に自分が入らない、というケースもある。その為、結婚したい人が効率よく繋がることができる婚活サービスの利用が増えている。
婚活サービスを利用して結婚する人が増加
婚姻件数は減っている(出所:厚生労働省)が、リクルート ブライダル総研の統計では婚活サービスを利用して結婚する人の割合いが増えており、2020年には16.5%が婚活サービスを利用して結婚している。近年はコロナ禍関係なく出会いの場が少なくなっており、結婚という目的がはっきりしているのであれば、アプリを使うのが合理的になった。利用者が増えるにつれて婚活サービスも多様化し、様々なニーズを取り込めるようになっている。「キャリ婚」というサイトは結婚しても仕事を続けたい女性向けの婚活サイト。女性の会員登録が有料で、男性は無料。自分の希望をかなえてくれる理解のある男性を見つけるためならば、お金を出してもよい、という女性に応えるサイトになっている。色々な結婚スタイルがあり、それに合わせた婚活サイトが出てきているということだ。
コロナ前と比べて恋人が欲しくなった人は30%を超える
リクルート ブライダル総研の調査では、コロナで孤独な時期を過ごした人が反動でか、恋人が欲しくなったという人の計が3割を超えた。それにともなって婚姻件数が増えて、人口が少しでも増加すればよい。
過去の歴史でいうと、スペイン風邪や世界大戦の後に出産率が上がった傾向がある。日本では子ども政策を行う組織名が「子ども家庭庁」と名前も決まり、今後より出産、育児支援政策も増えそう。
「キャリ婚」の共働き志向かを審査する項目がとても興味深かった。「女性パートナーが海外転勤になった際、ついて行くのか」など。その時になったら揉めることもあるので、事前に可視化されるのは興味深い。多様な感覚になっているので、事前に確認できるのは大事なのかもしれない。
企業の高齢化と設備の老朽化が同時進行する
先進国の間で、日本の設備投資額は低水準
OECDが提示している各国の資本ストックを比べ、設備投資への額を見ると、イギリスは6倍、アメリカは5倍も増えている中、日本は20年間で9%しか増加していない。2010年以降の経常利益の伸びから見ても、設備投資ができない環境ではない。だが、ずっと抑制傾向のままである。日本のDXが遅れているのは、最新のパソコンを入れてないからという説もある。古いパソコンでは、生産性が上がるわけがない。
人口減少局面で雇用者数は伸びたが、増えたのは非正規の労働者
総務省統計局の「労働力調査」を見ると、労働人口は増えているが、増えたのは女性と高齢者の非正規の労働者だった。人口減少が明確でありながら、企業は安価な労働力の投入を増加させて人海戦術をとっている矛盾がある。企業の高齢化と、設備の老朽化などが進むだけ。自動化等への投資を遅らせたツケがまわってきている。
DXはツールやシステムへの投資が必要と言われていたが、少しずつ人材や教育が必要なのではないかと注目がシフトしている。DXも人海戦術で乗り切ろうとしているのでは?と感じることがあるので、気を付けないといけないと思っている。
DXの阻害要因として、費用の9割が設備のメンテナンスに消えてしまっており、設備投資に回せないという話もあるが。だが、それは投資額自体が少ないのもあるだろう。もっと自動化を進める方向にしていかないと、これからより労働人口が減り、人手不足の時に慌ててやるのでは遅い。
運送業界が2024年問題に揺れる
運送事業者数は高止まりし、宅配便の取扱量は急増している
国土交通省が出している事業者数を見ると、運送事業者数は高止まりしている一方で、宅配便の取扱量は急増している。しかし、大型免許保有者は減っており、右肩下がりしているデータがある。運送業の労働環境は厳しいため、労働力確保が課題となっており、人手不足が深刻化している業界の一つ。
運送業界の2024年問題
大企業、中小企業の間で2019年~21年に施行されていた「働き方改革法」では、残業時間の制限や有給休暇取得の義務化などが盛り込まれていた。だが、運送業界は長時間労働かつ不規則な勤務状態で働く労働者が多いため、時間外労働の上限規制の適用には2024年までの猶予期間が設けられていた。2024年まで後2年。これから来るであろう労働時間の短縮に向けて、事業者はさらに多くの労働者を確保する必要に迫られるだろう。最近、店舗のEC化率も高まり、配達の利用が増えている。「ものが届く生活」に慣れた人が多くなっている現状もある。運送面がネックで新しいビジネスが起こせなくなるなど、クリティカルパスになる可能性がある。
アメリカの配達企業の大手「ドアダッシュ」はギグワーカーをメインの配達員として雇っていたのだが、最近現れた「超高速配達」に対抗するために、常時「ドアダッシュ」で働いてもらう必要がでてきた。その為に、ギグワーカーだった人々を正規雇用する転換を進めている。「ドアダッシュ」はこの状況を「これは新しい雇用を生み出し、新しい市場になるきっかけなので頑張ろう!」と訴えている。運送業界の2024年問題は大変なことではあるが、新しい雇用などが生まれるようになるといい。チャンスに変える視点や言い方は必要かもしれない
非正規雇用やギグワーカーの社会保障についての懸念もある。EUではギグワーカーの社会保障を正規社員と同じくらいに引き上げよう、という話もある。正規、非正規など色々な働き方があるが、働く人にとって環境が少しでも良くなるといい。
水質規制の強化で海が痩せる
瀬戸内海の異変。キレイな海 ≠ 豊かな海だった
瀬戸内海に面する兵庫県明石市の沖合では明石鯛や明石ダコをはじめ約100種類の魚が水揚げされている。同県の漁獲量の3割を占めていたイカナゴは2000年代前半、15,000トン〜30,000トンで推移していた。それが現在では1/10以下となる2,000トンを下回っている。理由を探ると、排水の規制が生態系に影響していることが分かった。
海をきれいにするため、瀬戸内海に流れ込む河川の規制が強化された影響により、栄養分が流れなくなり、プランクトンが育たなくなったことが原因だった。つまり、人間が自然のためにやっている排水規制が悪さをしていたのだ。これに対応するため、広島県のカキ養殖場では、肥料を入れて海を汚すことで、カキのエサになるプランクトンを育てる試みが始まった。
良かれと思ったことでも、自然にとっては良くないこともある
アメリカのイエローストーン公園の例もある。ヘラジカを守るために、捕食者である狼を駆除したところ、ヘラジカが増えすぎてしまった。それにより公園内の草木が食い尽くされ、生態系をぐちゃぐちゃになってしまったのだ。もう一度狼を戻すと、10年~20年かけて豊かな自然が戻ってきた。人間が良かれと思ってやったことで、生態をくずしてしまったのだ。試行錯誤しながらではあるが、様々な視点からのアセスメントが必要な時代になった。
工場の排水は止めるべきだが、下水は……。プランクトンが育つくらいまでは海を「汚す」
このような事態を避けるために、メタバースやデジタルツインでシュミレーションすることはできないのだろうか。時間軸は異なるが、富士通はダムのデジタルツインを作り、雨が降った際の洪水レベルなどの影響を調べたらしい。先の先を予想するために、最新の技術が活かすことができたらいい。
持続可能な観光を志向する人が増える
コロナで一番ダメージを受けたのは観光業界ともいえる。2017年頃は海外客によるインバウンド消費があった。だが、コロナが終息したとしても、もう戻らないだろうと言われている。観光業の再定義を考える時期になった。エアビーアンドビーの調査によると、「持続可能なツーリズム」を重視する人は多い。「非常に重要」だと回答したのは4人に1人くらい。「ある程度重要」と回答したのは42.1%だった。持続可能なツーリズムで重視することは「旅行先の社会と有意義な繋がりを提供する」「地元の人々に経済効果をもたらす」「独自の文化を紹介する」などの回答が選ばれた。「オーバーツーリズム」により、観光客の増加が地域の人に迷惑をかけることもあった。観光も変わっていかなければいけないのだろう。
2017年 コペンハーゲンが観光の終焉を宣言
観光政策について、コペンハーゲンは2017年に「”観光時代”に別れを告げて新たな時代を築きます。2020年、その先に向けて」の一文からはじまる文章を発表した。観光マーケティング担当であるはずの彼らの自己批判的な内容を交えてリズミカルに展開される内容だった。観光客を単なる観光客としてではなく、一時的な住人として扱うことで、観光客も地域コミュニティの一員となり、コミュニティに貢献してもらう、という話。どうやって一時的な住人として扱うか。どんな施策を行うかについて視点を絞って展開している。持続可能な観光を模索する人の目的に近いのではないかと思う。
コペンハーゲンの様々な施策
コミュニティディナーでコミュニティの一員に
フライングタイガーの創始者が起こした事業。ヴェスタブロ地区の使われなくなった教会をリノベーションした多目的施設では毎日午後6時からコミュニティディナーがある。8人のテーブルで端から座っていき、誰と同じテーブルになるか分からないというもの。8人揃ったら、食事を取り分けるなどしてコミュニケーションしながら食事するのだ。
自転車生活
ありきたりのようだがコペンハーゲンの暮らしの魅力はこれが大きい。自転車専用道路は世界のどの都市よりも発達しており、市内の一部に通っている高速自転車道路の気持ちよさは特筆すべきだろう。
運河を浄化し、遊泳可能に
コペンハーゲンの中心部は川のように見える運河が流れている。他の大都市同様、かつては汚染されていたものの、浄化が進んで泳げるレベルまでになった。夏の運河沿いには遊泳スペースが登場する。
大胆なリノベーションで花咲くスモールビジネス
店舗の変わった使い方を発明するのが大人気。小さな湾全体をレストランに、ガソリンスタンド自体や駅のホームをハンバーガー店になっている。地価高騰のあおりもあって、物件は常に不足しているから、物件さがし自体にもクリエイティブな発想が求められている。
日本でも様々な取り組みを始めているところもある。以前のようなインバウンド消費は戻らないと考え、どんな体験を作るか、持続可能な旅をどう実現するかを考えることも重要。コロナが終息した時に、人々と一緒に創り出していく姿勢が必要となるだろう。
2021年12月の提言:今年を振り返ろう
次回の「よげんの書」は1月21日(金)の開催です。ぜひお申し込みください