よげんの書は、生活の変化や経済・環境の変化など、社会課題を背景に少し先の生活を考えるマーケティングコンテンツです。企業や個人がマーケティングに取り入れるべき時代のナラティブをみなさんと共有するために定期的にセミナーを開催し、毎月10のよげんを発表しています。本ブログでは、2021年3月に発表した10のよげんの中の5つをセミナーでお話した内容のサマリとともにお届けします。
2021年3月号のよげん:後編
K字格差が止まらない
企業の収益格差が生まれています。Covid-19禍でも最高益を稼ぎ出す企業が多くありますが、一方で業績赤字の企業も多く存在します。人々の所得にもK字の格差が広がります。アメリカでは2019年の国民所得の45%を上位10%の人々が得て、下位50%の人々は国民所得の15%以下しか得られていません。この状況は、ドイツやフランスといったEUの先進諸国も同様です。
成熟した文明社会で起こるK字格差による分断は、文明を滅ぼしかねないとも言われています。こうした状況の中、米国ではCovid-19対策のために、200兆円の追加給付金の配布を決め、同時に財源確保のために、法人税と所得税の増税を決めました。増税は1993年以来であり、名目はコロナ対策ですが、それをきっかけに、それ以前から続いていたK字格差に対する今までできなかった具体的な対策でもあると感じます。
新たな階級闘争が始まる
米ゲーム専門店チェーン、ゲームストップの株価が1月下旬、乱高下しました。これは、ソーシャルメディア(交流サイト)上の呼びかけで突然結束した個人投資家による違法な売買行為だったのか、それとも正義感に燃える個人投資家が不正操作のはびこる金融システムに押し寄せた結果だったのかを巡って、多くの議論が巻き起こっています。
このゲームストップの株を購入した人たちの話を聞くと、多くの購入者は「抗議の意味で株を買っただけだ」と主張します。目標は世界中で不当な利益を得ているヘッジファンドをつぶすこと。こうした主張は背景に対して、専門家は「個人投資家とウォール街の間にある種の階級闘争がおきている」と説明します。ゲームストップ現象は、不平等が起こした現象です。
ゲームストップ現象はソーシャルメディアを使って実現した、消費アクティビズムの目に見える行動となりました。
ゴミという概念がなくなる
米国のリサイクルベンチャー企業テラサイクルが進める、Loopというサービスが話題です。テラサイクルはプラスチックのリサイクルに関するテック企業でしたが、そもそもプラスチックゴミをなくさないとダメだという使命に気づき、Loopをはじめました。アルミ等の容器を配送・収集して使いまわす(Loop)エコシステムを作ることで、ゴミを出さないというLoopの仕組みは、同時に高級感があり、デザイン性もある素敵な容器を作ることができる仕組みにもなりました。家に届くLoopの容器はとても素敵で、かつ家の中で保管するときもクールで見栄えのよいインテリアとしても機能する容器にもなっています。
クールジャパンは外資の力で蘇る
全世界でアニメが活況を呈しています。しかし、日本のアニメーターの収入はとても低く、貧困の中で生きていると言われています。アメリカのアニメーターの平均年収は約 816万円であるのに対し、日本の20~24歳のアニメーターの平均年収は 154.6万円であり、新人アニメーターの月収はわずか3~5万円程度であるのが現状です。
そうした日本の苦しむアニメーターのために、ネットフリックスは、次世代のアニメーター育成のためのプログラムへの貢献を発表しました。特待生制度を通し、受講生10名前後に月額15万円の生活費と授業料(60万円相当)を支給します。特待生制度を利用する受講生は卒業後、業務委託者契約者としてNetflixオリジナルアニメ作品の制作に取り組む予定となります。
古くからある日本のアニメ業界の構造に苦しんできたアニメーターは、ネットフリックスの支援によって蘇るかもしれません。
脱炭素にポジティブな企業が増える
NHKの国内企業100社に対するアンケートでは、2050年に脱炭素社会を目指すという日本政府の方針に対し、7割以上の78社が達成できると回答しました。一方で、政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略では「80%まで再生エネを導入すると、太陽光パネルを日本中の建築物に設置し、船の航行に支障があるところにも洋上風力を設置することになる」という表現が検討されていました(後に削除)。ポジティブな反応であった企業の脱炭素に向けた意思に対し、政府の表現はできない理由を並べたような内容です。
3月11日の日本自動車工業会の定例記者会見では、同会の会長であるトヨタ自動車の豊田社長は、日本を再生可能エネルギーで営める環境に変えないと「このままでは日本でクルマが作れなくなり、最大100万人が失業する可能性がある」と話しました。脱炭素にポジティブな企業の力で、日本を環境の国に変える必要があります。
2021年3月号のよげんから考える提言
ルールは常に変化する。ルールの変化を見極めよう。
