「若者の嫌消費が叫ばれ、消費が伸びにくい」「若者の生活実態を探りにくいため、人口ボリュームのあるシニアを対象とした商品開発に拠らざるを得ない」といった声をマーケターの方々から聞くことがあります。若者の消費に対する価値観はどのようなものなのでしょうか?また、昔に比べてテレビを見ないと言われていますが、その時間は何に置き換わっているのでしょうか?
「大学生」のお金の使い方・時間の使い方と、そこから見えてくる価値観から、今後の消費のターゲットとなる若者像の一面を探った自主調査のご紹介です。
大学生のお金と時間の使い方に対する価値観
今回の研究では、大学生(大学院生含む)を対象に、お金の使い方(1ヶ月間)と時間の使い方(2週間)を記録してもらい、後日個別インタビューを行いました。彼らの消費に対する実態と価値観を「自分のため」と「他者と共有するため」の2軸で整理したのが上の図です。それぞれのグループで特徴がみられました。
グループ① 自分のため【多】× 他者と共有【多】
―――――― 多方面でメリハリ消費
●自分の衣食住のために買ったり食べたりという自己完結消費だけでなく、他者と共有するための消費も活発なのが特徴。興味範囲や、学校・サークル・バイトなど関わるコミュニティの範囲が広く、交流も活発。
●多方面で消費をしつつも、「服にはお金をかけたくないけど、靴とかばんはかけたい」「おかしはコンビニで買わないようにする」「水はPBでいい」「節約のために歩く」など、メリハリをつけた消費を行う。
<データ例>買ったもの/金額/内容・理由(学年・性別)
・夜ご飯(旅行先)/2,720円/一人居酒屋デビューだったので、しっかりと事前にリサーチしてから行った。名物を美味しく頂けて満足だった。(4年生・女)
・ぶりしゃぶのコース/5,000円/サークルの先輩に誘われていきました。たまには2500円で質の悪い飲み会をやるのではなく高いお金でいいごはんといいお酒をたしなむのが趣旨の模様。(1年生・男)
・熊の抱き枕(Amazon)/3,487円/ボッチをこじらせたのか知らないけど朝バイト先へのバスに乗っていたとき衝動買いした。かわいい。(1年生・男)
グループ② 自分のため【少】× 他者と共有【多】
―――――― 自分は抑えて他者優先消費
●自分のために買ったり食べたりという自己完結消費はなるべく抑え、趣味やサークルなどの課外活動など他者と共有する部分に優先的に、時間やお金をかける。優先する内容によっていくつかのタイプが見られる。
タイプA 居心地良いネットワーク・愛着継続タイプ
大学だけでなく中高の地元の友達と過ごすことが多く身近なコミュニティを大切にする。また、新しいものに飛びつくより慣れ親しんだものに愛着を感じ大切にする。
<データ例>買ったもの/金額/内容・理由(学年・性別)
・ファッション雑誌/570円/春服を購入する前にトレンドを知りたいと思い、ほぼ毎月買っているものと同じ雑誌を購入。大学生向けの雑誌なので載っている服装が少し若いなとは感じているが、好きなモデルさんがいるので購入した。(4年生・女)
・カラオケ代/2,052円/友人の好きなアーティストのライブDVDを一緒に見るため、フリータイムの料金が安く、DVDが見られるカラオケ店を友人が探して予約してくれた。(4年生・女)
タイプB 課外活動集中タイプ
サークルや学外活動を通じた趣味が明確で、それを中心に時間・お金の使い方が成り立っている。
<データ例>買ったもの/金額/内容・理由(学年・性別)
・スタジオ代/800円/ダンススタジオ使用のため。(1年生・男)
・ダンスサークルのチケットノルマ/15,000円(2年生・女)
・交通費/308円/節約のため一駅歩いた。(2年生・女)
・カラー/お金がないのでトリートメントはしなかった。(2年生・女)
タイプC コト消費優先のこだわりタイプ
交流範囲は広く、他者との共有や、その時にしか体験できないコトに時間やお金をかける比重が高い。
<データ例>買ったもの/金額/内容・理由(学年・性別)
・ピザ/300円/飲み物にお金をかけたくないので、飲み物はお茶にしてピザを割り勘しました。(1年生・女)
・イベント/1,000円/ASEANに興味があり、ASEANからの留学生も来るということでイベントに参加しました。(1年生・女)
グループ③ 自分のため【多】× 他者と共有【少】
―――――― マイペース自己完結型消費
●消費や選択において、【面倒】という感覚が強いのが特徴。他のグループに比べ、マイペースで自己完結型の消費が比較的多く、自分の時間を拘束されるのを嫌う。
<データ例>買ったもの/金額/内容・理由(学年・性別)
・美容院/7,500円/前撮りが終わり、ようやく髪の毛を切っても平気になったので切った。うねうねするのが少し気になるので縮毛矯正もした。(1年生・女)
・ネイルケア@中国/550円/長い爪が苦手で、甘皮とか考えると、サロンでケアしたほうが楽だから。(大学院2年生・女)
TOPICS
続いて、彼らの「消費」に対する価値観について象徴的と感じられたものを一部ご紹介します。
友達と一緒なら使ってもいいかな
共通して節約志向が見られる中、消費に対して心理的ハードルが下がるのは「友達や他の人と一緒のシーン」。普段は高いコンビニを避け、ディスカウントストアやスーパーでお菓子を買うという学生も、友達と一緒のカフェでは1,500円でも出す。他にも、自分の食事や服、美容にはお金も時間もかけたくないけど、友達と一緒の食事や旅行にはかけたいという声が多く聞かれた。
若者が消費を嫌っている(嫌消費)というわけではなく、「限られたお金を自分のために使う消費より、他者と共有するための消費に価値を置いている」という一端が見えた。世の中に選択肢が増えたことで、今は、【みんなが持っているもの】【みんなが同じ時間に体験しているもの】があまりなく、その分、周りの仲の良い人と何かを共有するための消費に価値を置いているのではないだろうか。
本当にほしいもの・やりたいことがある時に我慢するのは悔しいから、普段は節約
これから先、何かやりたいことや、欲しいものができたときに、【お金がないからできない】【お金がないから買えない】という状態を避けたいので、【何か】が明確でないうちから日々の生活を節約する。高校生に比べると自由になる時間もお金も増える大学生ではあるが、目の前の消費に飛びつくのではなく、先を考えてリスクヘッジをしている印象を受けた。こうした背景には、世の中に安くて高品質な商品が増えたことでリーズナブルな価格で十分なものが手に入る環境も影響を与えているものと思われる。
自分の時間を拘束されたくない
時間の使い方に関しては、テレビから動画(YouTube)への傾倒は顕著であった。学校、アルバイト、サークル・・・という忙しい大学生活だからこそテレビを見ていないのかと思われたが、実際のところ「中学生くらいから見ていない」という声が多かった。LINEなどのSNSが高校時代に浸透した世代という点で、テレビの視聴がコミュニケーションに置き換わった世代ともいえるかもしれない。決まった時間を拘束されるテレビの優先度は低いという発言が目立ち、好きなときに好きなだけ楽しめるもの(動画や読書)に価値を感じていて、その点では受動的というより能動的な選択をしている世代のように捉えられた。
■調査概要
調査対象者数:10名
性別:男性・女性
年齢:19~24歳(大学生・大学院生)
居住地:埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・大阪府
調査期間:2016年3月~2016年5月
調査手法:日記調査+パーソナルインタビュー
1)日記調査(実施期間:2016年3月)
・時間の使い方:21時~寝るまでに限定。2週間分記録。
・お金の使い方:自分がお金を出して買ったものについて、1ヶ月分記録。
2)パーソナルインタビュー(実施期間:2016年4月~5月)
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