ザ・マーケター
このコンテンツはドゥ・ハウスが2004年12月から2005年10月までマーケターにインタビューし、HTMLメールで配信していたものです。一部、本文中の商品情報やご協力いただいた方々の情報については現在と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
2005.04.12
マーケタープロフィール

vol.05[02]

 気づかれないリニューアルの積み重ね

日本人の平均寿命に近い80年という歳月を生きた商品は、背景にどのような営みを持っているのか。製品を維持するどんな努力があるのか。今回は、その核心に触れていただきました。

Pick Up!

キユーピーマヨネーズ

味を市場に適応させる

喜山:高宮さんは「変えない」ということをおっしゃっていました。80年生きた製品は、何を変え、何を変えなかったのかという点がとても興味深いです。

高宮:基礎調味料ですから、大きくは変えないのが基本です。ですが、世の中は変わります。食生活が変りますから、味の嗜好も変わるわけです。60才になった人が今食べているマヨネーズと、10才のときに食べていたマヨネーズとでは、味が違います。ほんのわずかですけれどね。その時代、時代に合わせたマヨネーズにしているからです。味や原料の種類が違うわけです。

例えば植物油について言えば、昔は綿実油が中心でしたが、今は軽くて食べ慣れた菜種油などを使うようになりました。味は、それこそ毎日研究しています。お客さまには本当に分らないわずかな違いを社内では喧喧囂囂(けんけんごうごう)、相当、議論をしています。まぁやってみようとか、とりあえずやってみようとかはないんです。本当にこれでいいのかと検討します。だから、準備はしたんだけど出していないものもいっぱいあります。

喜山:味が分る人がいるわけですね。

高宮:味をつくる人は専任の者がいます。そこでつくった味が、行くべき方向性、考え方に合っているかどうかは、本人の想いもそうですが、味覚の鋭い人間のパネラーを使って検証しています。

喜山:パネラーというのは消費者を使うのですか?

高宮:研究所の社員が中心です。テストをしてトレーニングもします。味の官能評価ができる人を探す必要がありますから。

喜山:それは、絶対音感があるというようなことですか?

高宮:そうです。そう思っていただいて結構です。その人たちは美味しいかどうかを見るんじゃなくて、味の違いを見ています。

酸素抜きのこだわり

高宮氏

喜山:わたしたちの知らないところで、小さなリニューアルが無数に行われているということですか?

高宮:そうです。使い勝手や保存についても言えます。マヨネーズというのは7割が油です。油というのは酸素に触れると、酸化して味が悪くなるんですね。ですから、酸素をできるだけ除去していつまでもおいしく食べてもらうこともテーマです。

最初、容器は瓶でした。瓶は酸素を通しにくいです。ところが、使い勝手を考えて昭和33年に軟質ボトルにしました。

喜山:わたしたちが使い慣れているのは、軟質ボトルというんですね。

高宮:これは日本に独特なんです。片手で絞って使えますので使い勝手はいいんです。台所でスプーンを使っていた瓶から、食卓でサラダに直接かけることができるようになって、とても身近な調味料になったきっかけのひとつでもあります。しかし空気を通しやすいのです。そこで、いろいろ研究を重ねて、酸素を通しにくいフィルムとポリエチレンの薄い膜を3層や5層に重ね、酸素を通しにくくしました。

喜山:あの透明に見える膜が、3層も5層も重なったものだったんですか。

高宮:それだけではないんです。キャップからも酸素は入ってしまいますね。そこで、昭和63年、アルミシールで蓋をするようにしました。そこで、またひとつ、酸素を遮断しました。

でも、まだシールとマヨネーズの間に空気だまりができますね。そこにも酸素はあるわけです。そこで、平成10年、空気だまりに窒素を吹き込み酸素を追い出すことにしました。

喜山:それほどこだわってらっしゃるんですね。

高宮:ところが、まだあります。

喜山:え?(苦笑)

高宮:さきほども申しましたように、マヨネーズは7割が油です。その油自体に、そもそも空気が溶け込んでいることが分ってきたんです。そこで、原料の油自体から酸素を抜くことも今はやっています。お客さまからすると、いつでも美味しいマヨネーズを食べられると思っていただくことが使命ですから、その裏では、少しずつ少しずつ、改良を重ねてきているんです。

喜山:なんといいますか、その徹底ぶりは、製品としての完成度が高いから、もうそういう細かな所の改良をするしかないということと、技術の発達を背景にしたこととの両方がありますか?

高宮:そうですね。特に分析技術の発達は背景になっていると思います。たとえば、「酸素を取り除く」ということでいえば、やはりここへ来て、色んなメーカーさんが取り組み始めています。他社でも牛乳やビール、缶コーヒーなどでもあります。

われわれに限らず、どの商品についても、最高の美味しさをお客様にお届けしたいという強い想いが共通にあるんですね。

選択肢を増やす

高宮氏

喜山:製品の属性に対する徹底したこだわりが分ります。単に変えないということだけではなく、変えないものの純度を高める努力というものがあるんですね。

高宮:実は、製品の数を増やすということはしてきました。マヨネーズの悪いイメージを聞くと、「カロリー」と「コレステロール」が必ず出てきます。日本人の生活水準の向上とともに健康志向の価値観が変わってきたという背景もありました。昔は、健康を考えて油を摂りなさいと言われていたのですが、今は、健康を考えて油を摂り過ぎないようにと変わってしまいました。この変化にどう対応するのか、というのは我々の大きな課題でした。

これに対応して、91年にカロリーハーフの「キユーピーハーフ」を、2001年には、コレステロールゼロの「キユーピーゼロ ノンコレステロール」といったマヨネーズタイプを出しました。

喜山:健康志向の顧客ニーズに対応した新カテゴリー開発ということになりますね。

高宮:ところが、自己矛盾でもあるわけです。ハーフやゼロを出すときには社内でも相当、議論しましたし、揺れました。もともとのマヨネーズを、栄養価も高く健康にいいと考えているから、ハーフやゼロを出すということは自己矛盾ではないかということです。

しかも、油脂やコレステロールは、摂取量が多すぎるのがいけないというだけで、そもそも動物には欠かせない栄養素ですから。われわれ社員にとっては簡単に整理できない難しい課題でした。

その一方で、メーカーの使命はお客さまのニーズに対応した魅力ある商品を提示することにある、と。そう考えてお客さまの視点に立てば、マヨネーズとは異なるコンセプトを持った商品を発売することは、選択肢を増やしているということで、矛盾ではないと考えることができますからね。

喜山:商品の多様化というのは80年代の流行りのように思いますが、90年代以降に出てきたのは、充分な議論を尽くす時間だったのでしょうか。

高宮:それもありますが、技術の確立が大変だったのです。たとえば、コレステロールゼロについて言えば、マヨネーズの美味しさは卵黄が担っています。その卵黄にコレステロールが含まれています。ここで、コレステロールを除くために卵黄を配合しない商品を作っても、これはもうマヨネーズではない。それはマヨネーズメーカーとして、納得できるものではない。けれど、お客さまに、「キユーピーさん、わたしマヨネーズ大好きなんだけど、人間ドックに入ったらコレステロール値が高いって言われたんです」と言われると、そういうお客さまにも応えたいわけです。そこで、卵の黄身のなかからコレステロールを取り除くということ。この技術を開発するのに何年もかかったんです。

喜山:その技術開発の時間なんですね。思いつくこと自体はできそうな気がしますが、それを実現する努力は並々ならぬものを感じます。それではその結果、選択肢の拡大は市場の拡大にはつながっているのでしょうか。それとも補完の関係ですか?

高宮:ハーフやゼロを発売したことで、そちらを好むお客様がスイッチしたと認識しています。

喜山:製品自体のアイデンティティにとって、顧客のニーズを考えることが、矛盾になることもあるけれど、顧客のニーズに対応させる必要は当然、あるということですね。

高宮:課題もあるんです。カロリーのハーフとコレステロールのゼロを出したのですが、お客さまにとって必ずしも両者は区別されていないんです。ハーフはカロリーが半分、ゼロはコレステロールがゼロの意味が十分に理解されているわけではない。栄養士さんでも混同することがあるようですから。

喜山:ああそうなんですか。そこにギャップがあるんですね。



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