ザ・マーケター
このコンテンツはドゥ・ハウスが2004年12月から2005年10月までマーケターにインタビューし、HTMLメールで配信していたものです。一部、本文中の商品情報やご協力いただいた方々の情報については現在と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
2005.03.01
マーケタープロフィール

vol.03[04]

 明るいネクラ

開発マーケターとして長いキャリアを持っている藤村さんには、「昆布ぽん酢」だけでなく、その他の失敗や成功、そして開発マーケターの課題についても話していただきました。

Pick Up!

昆布ぽん酢

ごまだれの成功、多くの失敗

藤村:94年にはごまだれ(ざるうどん専科ごまだれ)を出したんですが、これは成功しました。これは山中さんに教わったことをやった最初でした。やっぱり調査とかちゃんとやらないとダメだよなって。でも当時の上司には、「お前調査やったら絶対売れるのか」って言われました(苦笑)。でも最後には「お前のやり方でやってみろ」と言ってくれたんです。

この商品の開発のきっかけは、西友のバイヤーさんに言われたんです。夏場のうどんが売れるんだよ、と。でそのバイヤーさんが言うには、「俺は思うんだけど、女性はうどんが好きだから、冷やしうどんで食べてるんじゃないか」と。「だから、ざるうどん用のつゆを作ってくれ」って。それで、ざるうどん用のつゆを考えたんですね。

一般的なしょうゆタイプと、味噌だれと、今までにないごまだれをつくってCLTをやってね。そしたら、もうごまだれが圧倒的にコンセプトの評価も高いし、食べても「美味しい」って出たんですね。で、CMも入れずに定番に入れてもらっただけで、すぐに売り切れ続出で欠品になってね。すごく売れました。調味料でもこういうこともあるんだなとびっくりしました。

あれで、調査をしっかりやって商品を作るというやり方が定着しました。

95年には、「中華寄せ鍋専科」を出したんだけど、これは全然、売れなかったですね。鍋つゆには和風はあるけど、中華風がない。それに主婦は鍋メニューにマンネリ感を持っているし。これは売れるんじゃないかと思って。これも調査したら「買いたい」「美味しい」という評価だったし、バイヤーさんの評価も高く、これはいけると思ったんだけど、全然売れない。

鍋って、それがメインの料理になるから、これがトライアル・ユースで失敗したら、その日の晩御飯が無くなってしまうんですよ。主婦としてはリスクが高過ぎるから、売場で手が伸びない。それでこの商品は失敗したと思っています。

その後各社から、同じような中華タイプの鍋とか洋風の鍋とか出されましたけど、売れたという話は聞こえて来ないし。その点からもエバラさんの「キムチ鍋」は、偉いなって思いますね。

喜山:藤村さんのように長く開発マーケターをされていたら、失敗の原因が分るわけですから、時期を見て再挑戦はされないですか?

藤村:リベンジって失敗しやすいですよね。成功したっていうケースをあまり聞かないなぁ。「昆布ぽん酢」の例で言えば、お客様が動いた時にチャンスがある。逆に動かない時にリベンジやってもダメということかもしれないですね。

ウォンツ時代のパーセプション・マップ

藤村氏

喜山:最初に、今までのやり方では今後はダメだとおっしゃっていましたが、具体的にはどういうことですか?

藤村:山中さんに紹介された本、『プロダクト・マネジメント』(グレン・L. アーバン、ニキルシュ ドラキア、ジョン・R. ハウザー(著)、林 広茂、小川 孔輔、中島 望、山中 正彦(翻訳)、1989年)をお手本にわたしはやってきました。

これはいい本です。絶版になっちゃってるけど。いまはなかなかその通りに出来なくなってると思うんです。因子分析してパーセプション・マップを作ってポジショニングを決めて新商品を作るというステップに入れない。

だって、どこにも穴がないんですから。マップのどこもかしこも埋まっているのが現状ですよね。スキがない。

更に人口減少の時代で、中食が増え内食が減る傾向にあって、特に家庭用調味料のマーケターには閉塞感がある気がします。

喜山:新しい形のパーセプション・マップが必要だということですか?

藤村:そう。顕在化しているニーズを軸にしたパーセプション・マップではなくて、顕在化していないニーズを軸にしなければだめでしょう。でも、顕在化していないニーズって、体感して初めて分るものじゃない? わたしの最近の例で言えば、「iPod」がそう。家にある曲を全曲持ち歩ける。でも、これが無いときに、カクカクシカジカの商品ですって言われて、いいねと言うかというと、別にMDウォークマン持ってるし充分だよって答えたと思うんですよ。それが家にある全曲持ち歩けるというベネフィットというのは実際に体験して初めて、これは良いと気づかされる。

この例は我々開発マーケターにとってのお手本ですし、この顕在化していないニーズを軸にパーセプション・マップを作れるようにするのが今後の課題ではないでしょうか?

開発マーケターに必要なこと

藤村氏

喜山:開発マーケティングをやる上で必要なものは何でしょう?

藤村:前、山中さんに聞いたときにね、開発マーケターは「明るいネクラ」じゃなきゃだめだって言われましたよ。要するに、パーセプション・マップ型の開発でどこにも穴が空いてなかったときに、それで諦めるんじゃなくて、コツコツ分析を続けて、小さな穴や新しい軸の可能性を見つける。その小さな穴や軸が大きくなるまで、網を張って待つという気長さも必要だってことではないかな。それも明るく楽観的にね。

あと、わたしは文系なんだけど、若い頃からパソコンが好きだったのね。BASICでプログラミングとかやってたから、因子分析とかそういうのも、とっつきやすく自分でできたんですね。だからのめりこめたんだよね。

文系なのに理系っぽい、とか、理系なのに文化が好きとか、そういう人がマーケターには向いてるって聞いたこともある。そうかもしれないですね。

もう1つの強みは、わたしは30歳まで営業をやってたから、スーパーの陳列がすぐに頭に浮かんで来るし、休日にかみさんとスーパーに買い物に行ったら、何が新商品かはだいたいそこで掴めてしまう。だから、新商品のアイデアをスタッフが出してきたとき、何が競合するかというのはすぐに分るところはあります。

いま最大の課題は、調査が説明資料になってるってことですね。社内やバイヤーさんを説得するための資料にね。一般的に購買意向がある人が65%以上あればOKという基準があるんだけど、ある会社の資料はそれが90%になっててね、これってちゃんとしたやり方で調査をやったのかなって思いますよね。また、現状の調査方法の限界があって、結局検証型の調査しか出来なくなっている面もあると思います。

山中さんが「コツコツやっていくことが大事」っておっしゃってたけど、諦めないでやるべきことはちゃんとやる。甲斐性というより堪え性ね。その上で、マーケターとしては自分の引き出しを増やしてアイデアを出しやすい状態にしておけば、神様がつぶやいてくれる時があって、それがヒット商品の開発につながるような気がします。

ダメな時っていうのはね、本当にいろいろ邪念が入ってしまう。十分条件だけ答えて、必要条件に答えてないというように、結局いろいろ盛り込んだ挙句に何がなんだかわからない商品に仕上がってしまって失敗するのが代表的なケース。

喜山:山中さんは開発マーケターの寿命は1年だとおっしゃってました。大変な仕事だから。それを踏まえると、藤村さんは相当、長くやってらっしゃいます。長く開発マーケターをやる秘訣はありますか?

藤村:ああ、失敗や嫌なことはすぐ忘れることね(笑)。それと常に新しいやり方とかシステムとかないかって考えたり、探したりすること。

喜山:なるほど。ポジティブ志向ですね(笑)。

藤村:やっぱり開発マンとしては、葉書きで「美味しい」とか「今までぽん酢嫌いだった子供が昆布ぽん酢で好きになりました」という言葉をもらうと、本当に嬉しいですからね。人に喜んでもらうということが開発マンのパワーの源だと思います。

喜山:ああ、やっぱりそれがあるからやれるんですね。ありがとうございます。




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