ザ・マーケター
このコンテンツはドゥ・ハウスが2004年12月から2005年10月までマーケターにインタビューし、HTMLメールで配信していたものです。一部、本文中の商品情報やご協力いただいた方々の情報については現在と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
2004.12.21
マーケタープロフィール

vol.01[03]

 『ハートランド』は一度失敗したブランド

伝説のブランドはなぜ、失敗したのか。
そして、なぜ復活することができたのか。 そこに原点を忘れないマーケティングの努力がありました。

Pick Up!

ハートランドビール

『ハートランド』は一度失敗したブランド

山田:ここまで「どうです、ハートランドってすごいでしょう」と説明してきましたが、実は、ハートランドは一度、失敗したブランドと言っていいと思います。87年には缶を発売し、CMも放映し全国展開もしました。しばらくはよかったのですが、その後売上は急落して、91年には缶も終売になりました。87年がピークの売上で、93年はその2割にも満たない数字に落ち込みました。ブランドでここまで落ち込んだら、完全に失敗したと言っていいと思います。

ハートランドの失敗については、社内外で良く「缶の発売」が原因と言われるのですよ。現に私も、ハートランドの缶と言うのは、何か違うのじゃないかなぁと思ったし、「缶を発売したこと」が失敗の要因と思ってきました。

しかし、ハートランドのブランド・マネジャーになってからいろいろ考えたのですが、単純に「缶発売」が原因ではありません。お客様に愛され、「買われる」ことを志向したブランドだったのに、「売るため」の施策に走ったからだと、今は思っています。「缶発売」や「テレビCMの放映」は原因の一部ですが、本質的な原因では無いのです。

そんな失敗したブランドですが、最も落ち込んだ93年には、20万ケース足らずになってしまいました。普通であれば、そのまま終売です。もちろん広告は89年以来全く行っておりません。ところが、奇跡と言っていいのですが、そこからじわじわと売上が伸びていったのです。それから昨年まで10年間はずっと前年対比プラスで伸び続け、今年は、11年連続プラスで、93年の約3倍にまでなったとみなさんに報告できそうな感じです。

どうもハートランドは、社内外のファンに支えられて伸びていったみたいです。「このお店には、これ」とハートランドファンの、キリンの営業マンがすすめる。他のお店で飲んだ人がファンになって、自分がお店を開店する際にハートランドにする。ファンの小売店の方が飲食店さんにすすめる。それと何といってもビアホール・ハートランドで、ハートランドを好きになってくれていた人がいたわけです。まるで仲間を増やすように、ハートランドは増えつづけていったのです。そして、ある特定の人々の生活導線上に存在する高感度商品へと成長していったのです。

「売る」のではなく「買われる」ために、戦略の再現

山田氏

時間の経緯のなかで、2001年頃に、改めて時代の空気を感じてみると、個の時代であることは間違いないし、本物志向になっているし、デザインの時代になっていますよね。冒頭の「ノストラダムスの予言」は、不可逆の流れのはずです。そういう空気を感じると今度こそ、本当にハートランドが受け容れられる時代がやってきたと思えました。80年代と変っていたのは、例の「予言」が、より具象化されていたことでした。携帯に象徴されるような「個メディア」を有することになっていること、インターネットのように、情報に個人が能動的にアクセスすること、それから、@コスメなどのようにお客さん同士のコミュニケーションが新たな価値を生むようになっていること、ハリウッドの映画も流行るけど、単館で『アメリ』も上映され、その両方がお客様から支持される時代になったこと等。

口はばったいですが、「時代がハートランドに追いついた」のです。

そこで、この勢いを本物にし、もっと愛されるブランドにするために、社内にハートランドプロジェクト・チームをタスクフォースで発足することになりました。ブランド・マネジャーの私はもちろん取りまとめで参画することになりました。2001年当時、私の上司でありマーケティング部長であった前田(ハートランドビールの開発者であり、ビアホール ハートランド初代店長)からは、「お前たちの時代なりのハートランドを作ってくれ」と言われて、身震いがしました。

注意しておくと、いままで話してきた80年代のハートランドのことやその思想は全部、前田やその周辺のハートランド教の先輩たちから叩き込まれたことですよ(笑)。

再活性化チームには、東京、大阪、名古屋の営業マン6人と本社企画部門からは営業部1人とマーケティング部の私、計8人が集まりました。みんな自他ともに認めるハートランド教の仲間です。そこで今の時代のハートランドを議論していきました。後にバーHEARTLANDの初代総支配人を務める島田も営業マンとして参画していました。

営業マンに参画してもらったのは、大きな会社にありがちな分業制を打破する考えもありました。企画部門と実行部門の距離を近くすることにより、現場に近いところで一緒に発想して、考えたことをすぐに責任をもって実行できる。そんなチーム運営をやってみたのですが、これもまたチャレンジでした。

場のエネルギーをコミュニケーションに転化するブランドづくり

ハートランド内観

何度も議論を重ねた結果、出てきた結論は、かつて考えた「買われるしくみ」の再現でした。つまり時代にふさわしい「場」×「商品」×「スタイル提案」です。

まず、何と言っても今の時代のハートランドを感じてもらえる新しい「場」です。「場」を持つというのは、本当に大きなことだと思います。その「場」にお客様が来てくれるというのは、お客様が主体的にそのブランドに関わっていただくこと、つまり一緒にブランド育成に協力いただけると言うことです。その「場」無しでは、新しい時代にハートランドをお客様に伝達できないと考えたのです。

「場づくり」の話をしていて、誰からともなく「そう言えば、あのハートランドのあった場所ってどうなっている?」という問いかけがありました。森ビルさんを担当していた島田が、「実は、03年4月に六本木ヒルズに生まれ変わる」との情報をくれました。みんなの目の色が変わりました。

新しい「場」は、かつての聖地である六本木6丁目しかあり得ない! その後、森ビルさんの協力も得て、何と営業を担当していた島田がその店に総支配人として自ら入ることも決定し、新しい「場」ができることが決まりました。

今度の店も、昔と同じビアホールか?と考えるとそれは疑問でした。ディスカッションの中で出てきたキーワードは、もちろんコンセプトである「素」、時代原理である「個」「主体的情報判断」「感性」「本物」「Less is More」そして「職住遊接近」、「オン/オフ」、「フリー/フラット」などでした。

「職住遊接近」で言えば、街に暮らす人がご近所感覚で使えること。「フリー/フラット」で言えば、関係性がフラットなスタイルの提供を考えました。例えば、上司と部下、先輩と後輩、というタテの関係ではなく、その場所では、「個」が尊重される、ヨコの関係。そこで、キャッシュ・オン・デリバリーのスタンディング・バーにしようと。すると、代りばんこに、勘定し合うみたいな感じで買ったりして。そういう上座も下座も無い、自由さ、平等さがいいと思いました。

こうしたキーワードから、「Neigborhood Bar」というコンセプトが出てきました。まさに「個」を大切にした、気軽に使える、ご近所のバーですね。わざわざ行くのではなく、常連の方に、毎日のようにふらりと顔を出してもらえる店づくりを目指しました。

ハートランドらしく、「ほっとした時に戻るところ(原点)」となる店づくりです。飲食のプロの方からは、50坪もあるスタンディングバーは日本では成功しないとたくさん意見をいただきましたが、メーカーとして世の中に新たな価値を提案するために、あえて新しいものにチャレンジしました。

次に「商品」ですが、その場で提供される商品には、新しさが必要です。ハートランドビール17年ぶりの新商品として考えたのが、スモール・ボトルでした。中びんや大びんは、注ぎ合うことが前提で、これはやはりタテの文化の象徴だろう。1人1人がハートランドを持ちながら、思い思いに楽しむ、「個」を尊重していながら、孤立しているわけではない、そんな世界が演出できること、メーカーとしての提案性、デザインの時代、感性の時代、女性にも顔を向けた商品と言う、様々な観点から、小さなボトルを投入したのです。小さなボトルは、ハートランドの特長であるエンボスを刻むのが難しく、なかなか上手く行かなかったのですよ。でも、そこを当社の技術陣や、ガラスメーカーの方たちの力で何とかいいものができました。

このスモールボトルを、ワンコイン(500円)で、ボトルごとダイレクトに楽しんでいただくスタイルが、すっかり定着しました。このビールは、しばらくは六本木ヒルズ内飲食店様限定で販売させていただいておりましたが、今では、まだ数は少ないですが、全国の一般の飲食店様でも楽しんでいただくことができます。つまり、HEARTLANDの仲間が増殖中ということです。

「スタイル提案」で言うと、アート展覧会や、カウンター裏の映像、DJスペースもあったりライブもやったりしますが、そうやってハートランドビールを楽しむ世界をお客様と共有したいと思っています。あくまでもお客様が主役で、アートも音楽も映像も、飲食を邪魔してはいけない。また、DJもライブもお客さんとの垣根を作っていないので、接触できる感じになっています。あたかも、近所の友達が来て演奏しているみたいに。これも、もともと演者と聴衆の垣根って無かったはずという「もともと」に根ざしているのです。

ギャラリーも月替わりに展示を変えています。おかげさまで、現在、来年の8月まで埋まっている状況です。アーティストの方には、「今までアートと言うのは、特定の興味がある人にじっくり見てもらえることを考えていた。ところが、ここでは飲食を楽しむ空間で、同時にアートも楽しんでもらえる。新しい世界が広がった。1ヶ月で1万人の人に見てもらえるわけですから、アーティスト冥利につきる。」と言ってくれる人もいます。そんなアーティストの方々ももちろんハートランドのファンになって、仲間に紹介していただいています。商品が中心になって輪が広がるというのは、こんなことを言うのだなと感じました。

飲食店はメンテナンスが大変なのですね。開店時がピークの状態で、そこから徐々に落ちていく。ハードの部分と、お客さまの飽きというソフトの部分。だから壁面は思い切ってシンプルに、美術館の壁面と同じ仕様にして、毎月ギャラリーが変わることにより毎月が新装開店という状況が創出できるようにしました。カウンター裏にも、10mもの大映像を投影して「動く絵」にしたのもそのためです。お客様はもともと飽きるものです。毎日来てもらいたいネイバーフッドバーなら、なおさらお店を常にリフレッシュする演出する必要があります。





Vol.01  - ハートランドビール -  [01] [02] [03] [04]


TOP